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2011-07-08 00:00
この国は“実害”をもたらす首相と遭遇した
杉浦 正章
政治評論家
やっていることが最左派政党の主張そのものでは、政権の崩壊どころか、日本経済が崩壊過程に入りかねない。「浜岡停止」に続く「玄海再稼働中止」は、首相・菅直人がかっての社会党のイデオロギー路線に勝るとも劣らぬ教条主義的かつ確信犯的な「脱原発路線」に舵を切ったことを意味する。社民、共産両党は、反原発の旗印を掲げているから、まだ旗幟(きし)鮮明だが、菅は旗印なしで、なし崩し的にやろうとしているところが、悪質だ。戦後初めて、日本は自らの経済に“実害”をもたらす首相と遭遇した。早期に政権を交代させ、菅の政策を全てひっくり返すことに期待をつなぐしかない。
かつて同一選挙区の与謝野薫起用を「不条理」と形容した海江田万里が、経産相辞意を表明した。今回の「不条理」はより大きく、深刻だ。閣僚として必死になって積み上げた成果を、首相によって根底から否定されたのであり、憤まんが爆発するのは当然だろう。しかし直ちに辞任しないのでは、早晩辞める菅にとっては、痛くもかゆくもない。辞めるなら直ちに辞めるべきだ。菅は、「6人組」造反、復興相の辞任、海江田辞意表明と、次々に政権が崩壊過程をたどっても、「カエルの面に水」で何の痛痒も感じない。澎湃(ほうはい)としてわき起こる辞任要求を愚かにも「敵との戦い」と位置づけて、かえって闘志をわかせているからだ。2日間にわたる予算委集中審議も、野党の追及不足も手伝って、菅の居座りを際立たせるだけに終わった。「広島・長崎の原爆犠牲者の追悼式典については、万難を排して出席したい」と次々に日程を追加する菅の耳には、被災地、政界、財界、一般国民のうめき声は聞こえていない。
前首相・鳩山由紀夫が「菅政権が長引くと民主党全体だけではなく、日本全体が世界の中でレームダックになってしまう」と“死に体日本”の国難を指摘しているが、鳩山政権も含めて、政権の選択を誤ると、いかに国民自身が塗炭の苦しみを味わうかの証左である。しかし国民にとって不幸なことは、問題が永田町だけのコップの嵐にとどまらなくなっていることだ。実害が生じているのだ。復旧・復興にしても、自治体の長など「現場」への依存度が高く、瓦礫の処理はいまだに遅々として進展していない。震災発生108日目でやっと任命した復興相が、たったの9日間で辞任である。これが被災地の政治不信をいやが上にも高め、被災者を無政府的な心境においてしまっている。
相次ぐ原発停止の経済への打撃も大きい。経団連会長・米倉弘昌が「国民への信頼を裏切るもの」と強い反発を示しているが、今夏の休止原発再稼働は不可能となった。7月7日の原発立地県の知事会でも、菅への不満・批判が噴出した。ストレス・テストの影響を予測すると、現在停止中の原発35基中13基が夏には稼働出来る見通しだったが、まずこれが不可能となった。残る19基のうち年内に12基が定期検査入りし、よほど早くテストを済ませない限り、冬場の電力事情は夏以上に厳しくなる。各地域で今夏の東電管内を上回る大規模な節電が必要になる。このままなら、来年4月には54基全てがストップし、夏には東電や関電など6社で電力不足が10%を超える見通しだ。我が国は「首相発の電力危機」に直面し、国全体を覆う不安が消費を冷え込ませ、経済を萎縮させ、産業の空洞化を招き、失業者を増大させるのだ。喜ぶのは中国、韓国などライバルだけだ。
参院議長・西岡武夫が「菅総理大臣は、何かの出来事に反応だけして、『あとは野となれ山となれ』という感じで、日本の産業や国民生活をどうしようとしているのか心配だ」と述べているとおりだ。対抗策は、思いつきとパフォーマンス政治に徹する首相を早期に辞めさせることしかない。新政権が、菅の政策の全てを撤回すれば希望が生ずる。新政権は、既に海江田が「安全宣言」を出しているのだから、ストレス・テストなどは再稼働の条件とせずに、単なる補完的なチェックと位置づけてしまえばよい。浜岡も菅が条件とした堤防などの工事を急いで再稼働に持ち込む。それには菅の主張する3法案を早く処理することだ。民主、自民両党の有志による超党派議連が7日、第2次補正予算案、特例公債法案、再生可能エネルギー促進法案の早期成立を決議したが、与野党執行部はメンツにとらわれず、妥協するべきだ。菅退陣という「大の虫」を生かすため、妥協という「小の虫」を殺す政治に徹するしかない。
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