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2011-07-09 00:00
南シナ海の海洋安全保障維持の多国間枠組みを構築せよ
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
7月9日から、南シナ海のブルネイ沖において、海上自衛隊と米海軍・豪海軍による共同訓練が実施されている。日米豪共同訓練は2007年に始まり、今回が4回目となるが、南シナ海で行なわれるのは初めてのことである。今回の共同訓練の狙いは、いうまでもなく、領有権を強く主張し、南シナ海への進出圧力を強めている中国に対する牽制である。日米豪の安全保障協力は、近年、進展が著しい。6月に開催された日米安全保障協議員会(2プラス2)で発せられた共同声明の中の共通戦略目標でも、豪州との安保協力の強化が謳われている。今や、豪州は、まぎれもなくアジア太平洋地域における主要なプレイヤーであり、日米豪の「同盟関係」は、地域の国際公共財の立場を獲得しつつある。また、共通戦略目標では、航行の自由の原則を守り、海洋における安全保障を維持することも明記している。これらが早速実行に移されたということになる。
今回の日米豪共同訓練は、もちろん有意義なことだが、日米豪の安保協力を骨格として、南シナ海における航行の自由と海洋安全保障を維持するための、多国間の取り組みを作り上げていかなければならない。すなわち、南シナ海沿岸の東南アジア各国を巻き込む体制作りが不可欠である。米国はASEANを強化することにより、そのような体制を作ることを目指しているようだが、中国は、ASEANの分断に全力を挙げている。ASEAN諸国間の安全保障協力強化も、もちろん悪くはないが、必ずしもASEANの枠組みにこだわらず、利害がより一致する南シナ海沿岸各国プラス日米豪の枠組みの方が、有効に機能するように思われる。
南シナ海における海洋安全保障を強化するために、沿岸諸国と日米豪は、情報収集および情報共有の枠組みと拠点を作るとともに、沿岸国の海上における警備・防衛能力を支援するべきである。我が国にとっても、南シナ海における航行の自由を確保してシーレーンを防衛することは、死活的利益であるから、上記のような枠組み作りを主導すべきだが、その足かせになるのが、武器輸出三原則と集団的自衛権の行使を認めないとする憲法解釈である。南シナ海における海洋安全保障を守るために多国間で軍事協力をするというのは、集団的自衛権の行使そのものである。武器輸出三原則は、我が国が沿岸国の警備・防衛能力の向上に対して円滑に協力することを妨げる。我が国の哨戒能力は一級であり、沿岸国にとっては大いに価値がある。
従来も、海賊対策などの名目で、ODAにより、武器輸出三原則を事実上迂回して援助を行なったという実績はある。そういうやり方もできないことはないが、やはり、武器輸出三原則を緩和して、真正面からサポートする方がスムーズに事が運ぶ上に、我が国の南シナ海における航行の自由確保へのコミットについて、強力なメッセージを発することになる。我が国の安全保障政策をゆがめる大きな要因となってきた、武器輸出三原則と集団的自衛権の問題という長年の課題をクリアして、是非とも、南シナ海における海洋安全保障を維持する多国間の枠組み作りを主導すべきである。そうしてこそ、今回の共同訓練のような、日米豪の安保協力強化は、価値を格段に高めることになる。
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