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2011-07-15 00:00
「南シナ海」のカギ握る米中関係
鍋嶋 敬三
評論家
中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)を巻き込んだ南シナ海の領有権紛争で、フィリピンが国際海洋法裁判所への提訴を表明し、対立が深まってきた。初の米中アジア太平洋協議(6月25日、ハワイ)でも両国の主張はかみ合わず、7月下旬、インドネシア・バリ島でのASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議では最大の焦点になる見通しだ。南シナ海は東シナ海に連なる日本の海上交通路(シーレーン)であり、不安定化のスパイラルが生じれば、日本の安全保障に重大な関係がある。日本はASEAN会議などで地域の安定化のために集中的な外交努力をすべきである。
米中両国軍の制服トップ会談(7月11日、北京)では、南シナ海の広大な領域の主権を主張する中国と航行の自由の原則を掲げる米国が、ともに一歩も引かずに終わった。中国は南シナ海を「内海化」し、軍備の近代化で西太平洋から米軍を閉め出す「接近拒否」戦略に長期的な狙いを定めている。これに対して、マレン米統合参謀本部議長は「米国は出て行かない」とのメッセージを中国に発し、「米軍の永続的な存在が、この地域で数十年間にわたり同盟関係に重要だったし、今後もそうだ」と断言、米国の同盟戦略にとって要の地域になっていることを明確に示した。オバマ政権はアジア太平洋地域の多国間協議機関を米戦略実行の上で極めて重視している。キャンベル米国務次官補はハワイ協議後の記者会見で、ARFなど地域組織の役割強化への支持を強調した。その上で(1)全関係国による対話の必要性、(2)アジアの多国間組織で米、中、日、韓、豪、印などカギとなる国の効果的協力、(3)ARFや今年から米国が参加する東アジア・サミット(EAS)などが重要な役割を果たす、との認識を明らかにした。
6月21日の日米安全保障協議委員会(2+2)後に発表された共通戦略目標は、前回(2007年)から劇的な変化を見せた。中国には「国際的な行動規範の順守」を求め、名指しはしないものの、「地域の安全保障環境を不安定にし得る軍事上の能力を追求・獲得しないよう促」し、航行の自由の原則を守り、海洋における安全保障の維持を明示した。それだけではない。ARF、EASを含む多層的な地域ネットワークとルール作り、日米豪、日米韓の安保・防衛協力の強化、日米印の対話促進、日米ASEANの安保協力強化をうたった。中国の急激な海洋進出による東南アジア安保情勢の不安定化に対応した日米の「南方シフト」が鮮明である。中国の動向について、米国 AEI 研究所のオースリン日本部長は3月末、米下院の証言で「中国はより非協調的に、より対決的になる」と予測した。
東南アジアの関心は南シナ海を巡る米中関係の行方に集まっている。中国とASEANは2002年、新たな領有権争いを抑制する行動宣言に署名したが、法的拘束力はない。中国は紛争は2国間で解決すべきだとして、多国間の話し合いを拒否、フィリピンが提唱する強制力のある行動規範にも反対している。ASEANのスリン事務総長は、地域の安定を求めて関係国の合意形成のための舞台を提供する意向を示したが、宣言10周年の2012年に成果が上げられるか、試練に立たされている。
主権がからむだけに、中国に対し融和的な態度は取れないが、さりとてフィリピンのように米国に頼って中国の機嫌を損ねることも得策ではないというジレンマが、アジア諸国につきまとう。中国との経済関係は極めて強いからだ。中国はラオスやカンボジアなどへの経済支援でASEAN10カ国の分断を図ろうとしている。ASEANが結束を維持できるのかも、大きな課題だ。米中双方にとって戦略的に重要な地域で対立の構図が持ち込まれれば、東南アジア全体に不安定化の火が付きかねない。日本は米国との同盟関係の強化を着実に進めつつ、ASEAN+3(日中韓)などを通じて「国際法の原則に則ってASEANと協調するよう」中国を説得する静かな外交努力が必要である。
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