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2011-07-20 00:00
菅首相の「脱原発」発言は、無責任かつ身勝手でさえある
松井 啓
元大使
菅首相は7月13日に「脱原発」の方針を表明し、2日後の15日にはこれを「個人的な見解だ」と軌道修正したが、たとえ「個人的な見解だ」としても、菅首相のこの発言は、大変に無責任な発言だ。日本は江戸時代の生活に戻れないし、人類は今更産業革命以前に戻ることはできない。開発途上国の人口は増大の一途であり、世界の人口は現在の67億人から2,025年には80億、今世紀末には100億を超えると予測されている。どうやってエネルギー需要を賄うかはグローバルな課題であり、大気汚染軽減との両立問題もあり、日本一国のみが「脱原発」に踏み切って、この問題の解決に背を向けるのは身勝手でさえある。
水と空気は地球が何億年もかかって創り上げた人類共有の資産であり、それらは国境も、査証もなく自由に動き回る。日本で事故を起こさなくとも、近隣諸国で事故があれば、黄砂と同じように偏西風に乗って放射線汚染大気は確実に日本にやって来るし、汚染海水も同様であり、それらは更に世界中に拡散していく。福島の経験を生かして、世界一安全な原発の開発を目指すことは、先進国としての日本の責務である。今回の事故対策では、アメリカとフランスの技術的支援を得たが、米仏にできて日本にできないことがあろうか。日本は、資源エネルギーも、食糧も、自給率が極端に低いのであるから、科学技術(特にIT)、原子力の平和的利用、宇宙ロケットの開発等の技術の推進、科学技術者の育成は、非常に重要である。日本が安全な原発の開発を放棄することは、技術立国の衰退を招きかねない。この分野で中国、韓国、インドの後塵を拝し、二流国、三流国になることに甘んずべきではない。
電力需要の原発依存度は、現在約30%である一方、自然エネルギー(太陽光熱、風力、地熱等)は2%に満たない。他方、日本は京都議定書の締約国であり、2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比25%削減することを国際的に宣言している。2030年には、原発による電力のシェアを50%以上とすることを目指した「エネルギー基本計画」もあり、これを転換するのであれば、このギャップをどうやって埋めるのか、現実的な工程表を明示すべきである。それなくしては、産業界の不安は解消されず、国内産業の空洞化、日本経済全体の衰退を招くことになろう。
この際は、一時的なムードに流されることなく敗北主義から脱して、大局的・長期的見地から、日本が世界一安全で効率的な原子力発電システムの基準作りにイニシアチブを発揮すべきである。日本はそのための犠牲と経験を充分に積んでいるから、官産学が連携し、IAEAとも協力して、種々立地条件に応じた国際的基準を策定していくことは、日本の責務であり、また日本自身の安全にも繋がると考える。
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