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2011-07-23 00:00
注目されるラシュカル・ガーからの英軍撤退の成否
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
7月18~19日の『議論百出』欄への拙投稿で論じたオバマ政権のアフガン撤退戦略にとって、アフガニスタン南部のヘルマンド州の州都ラシュカル・ガーからのイギリス軍の撤退は、重大な試金石となりそうだ。アメリカの同盟国の中でも、アフガニスタンとイラクでの「テロとの戦い」では、イギリスの貢献度は群を抜いている。2009年の増派を前に、イギリスはオバマ政権にスタンレー・マクリスタル陸軍大将の増派計画を受け入れるよう強く要求したし、ボブ・エインスワース国防相(当時)はイギリス軍の死傷者を減らすためにもアメリカ軍の追加派兵を求めた。在アフガニスタン英軍司令官のサー・デービッド・リチャーズ陸軍大将は「NATOが敗退すれば世界各地の過激派を『劇的に活性化させる影響』をもたらすであろう」と強調した。
バラク・オバマ大統領が増派という最終決断を下すに当たって、英米間の特別関係も何らかの影響を与えている。さらにイギリス陸軍はアフガニスタンで大変な偉業を成し遂げた。2009年11月には王室騎兵隊のクレイグ・ハリソン軍曹が2,475m 離れた場所にいたタリバン兵を射殺している。これは戦闘時の狙撃としてはギネス・ブック記録である。今年6月のNATOブリュッセル国防省会議では、ロバート・ゲーツ米国防長官(当時)が他のヨーロッパ諸国に国防費の増額を求める中で、リアム・フォックス英国防相が西側同盟でのイギリスの貢献度を高らかに主張した。そうしたイギリス軍の貢献度の高さを考慮すれば、ラシュカル・ガーの治安の権限をアフガニスタンに委譲したことは、この戦争の次の段階を見定める試金石である。イギリス政府は当地での治安に進展が見られると強調するが、事態は依然として予断を許さないからだ。ラシュカル・ガーでの権限委譲が失敗に帰してしまえば、ISAFの作戦にも、オバマ氏の米軍撤退計画にも、大きな支障をきたすことになろう。実際にアメリカのメディアもイギリスの行動に注視している。
英外務省によると、ラシュカル・ガーの治安は急激に改善したという。7月19日にはウィリアム・ヘイグ英外相が英議会にレポートを提出し、「6月に入って反乱勢力の襲撃は増加したものの、アフガニスタン治安部隊が効果的に対応している」と述べている。7月20日の英軍撤退の際に、ヘイグ外相とヘルマンド州のグラブ・マンガル知事は「権限委譲は、次の時代への大きな一歩だ」と述べた。ヘイグ氏はまた「イギリスが戦闘任務を完了する2015年以降もアフガニスタンに軍事援助と開発援助を供給し続ける」と述べた。アフガニスタン外務省のジャナン・モサザイ報道官は「この権限委譲は、治安責任の所在の移動にとどまらない」と明言し、「この権限委譲の目的は、長期的に安定、安全、平和なアフガニスタンを確立することが全てで、それこそが周辺地域と全世界の安全保障と安定に寄与する」と述べている。NATOのアナス・フォー・ラスムッセン事務総長は「権限委譲によって、自国民同士で戦う羽目に陥るタリバンの立場は弱まる」と言う。
しかし、英米両国のメディアは「事態は高官達が主張するようには進んでいない」と報じている。アフガニスタン国民は自国政府の治安維持能力を信用していない。今年の3月にアフガニスタンのハミド・カルザイ大統領が「7月以降に7ヶ所での治安権限の委譲を行なう」と表明して以来、暴動事件は急激に増加している。イギリスはそうした状況下でラシュカル・ガーの治安権限をアフガニスタン側に委譲した。カブールやバーミアンのように比較的安定した地域とは違い、ラシュカル・ガーでの権限委譲は控え目なもので、アフガニスタン治安当局に返還されたのは中心街だけである。ジョン・マケイン米上院議員が述べたように、戦場の実態よりもカレンダーに基づいて兵員撤退を行なうことは馬鹿げている。情勢が不安定なラシュカル・ガーからの英軍撤退は限定的である。権限委譲の結果はアフガン戦略の行方に大きな影響を及ぼす。また、イギリスはリビアからアフガニスタンに及ぶ中東の戦争に多大な貢献をしている。こうしたことから、私はイギリスがラシュカル・ガーの治安権限を委譲したことに注目を呼びかけたい。
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