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2011-08-12 00:00
新政権には「脱原発」の選択肢はない
杉浦 正章
政治評論家
広島・長崎で性懲りもなく「パフォーマンス型脱原発」を首相・菅直人が唱え続けたのとは対照的に、「ポスト菅」の候補らは、これを継承するどころか、一斉に「脱・脱原発」を唱え始めた。代表選に「脱原発」を唱える候補はゼロだ。これが意味するところは、はからずも菅の「脱原発」発言が、エネルギー政策で「雨降って地固まる」の効果を生じさせたことを物語る。そもそも福島原発事故の粉じんも収まらない中、感情論で原発の是非を唱えるべきではない。新政権は、誰が首相になっても、脱原発でのエネルギー政策の急転換はない情勢となった。
菅は、浜岡原発停止の独断以来、原爆式典に至るまで、強弱の差はあるが、一貫して「パフォーマンス型脱原発」に徹した。しかし、当初は「脱原発」で解散可能と判断して、世論をあおったものの、政財界、世論の猛反発を受け、最近では事実上「お題目」を唱えるだけとなっている。日本経済にとっての生命線であるエネルギー政策の壁を崩すことは出来なかったのだ。これとは逆に、代表選候補らは一様に、ポピュリズムの極みである「菅型脱原発論」に異論を唱えている。財務相・野田佳彦は「電力不足が経済の足を引っ張ってはいけない。少なくとも2030年までは既存の発電所を活用する」と20年間は現状維持だ。前外相・前原誠司も「菅さんの脱原発はポピュリズムに走りすぎだ」と本質を突く。経産相・海江田万里も「安定的な電力供給は、経済を回復軌道に乗せるために不可欠。安全性が確認され次第、原発を動かす」と再稼働の方針だ。その他の候補も皆「脱原発」への反対を表明している。あえて火中のクリを拾うものはいない。
まさに「脱・脱原発」の潮流だが、その理由はどこにあるのだろうか。まず第一に、俗受けを狙った「外連味政治」が民主党政権自体不可能に陥ったことが挙げられる。2代続いた首相によるパフォーマンス政治は、いずれも支持率が10%台にまで落ち込んで、国民から嫌悪されていることが証明された。子ども手当廃止が象徴するマニフェストの破綻が物語るものは、国会対策上もポピュリズムでは政治が動かない現実を突きつけた。そして「菅型脱原発」も破綻に至ったのだ。「脱原発」は朝日の世論調査でも72%が支持しているが、菅発言を契機に全党がそれぞれに「将来の脱原発」を是認して、支持率の上昇にはつながらないことが証明された。支持率はかえって落ちているのだ。
加えて、次期政権は、当面災害対策の第3次補正予算を軸に自民党との良好な関係維持が不可欠な状態に立ち至っている。野党との関係改善は、代表選候補の必須条件と言ってもよい。その中で、自民党とのあつれきの元である「脱原発」を唱えることは、自殺行為に等しいのだ。また支持労組の「脱原発忌避」も大きい。自民党の脱原発にブレーキをかけているのが電事連(電気事業連合会)の存在である一方、民主党の脱原発に歯止めをかけるのが電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合)なのだ。電力総連はかつての民社党支持の同盟系労組に所属し、原発は労使一体型で推進だ。選挙を前にその支持を失うことはできまい。
こうして代表選では「脱原発」を唱える候補はいなくなったのだ。代表選でいなくなったということは、誰が首相になっても、選挙後の党役員・組閣人事で政府・与党首脳の多くが「脱原発」ではなくなることを意味する。つまり、国民の感情論を狙った「パフォーマンス型脱原発」は、事実上消え去ることになるのだ。そもそも国の安全保障とエネルギー対策を政争の具に使うこと自体が、邪道の“禁じ手”なのだ。国会では再生エネルギー買い取り法案が修正の上成立する。原発事故が収束するのを待って冷静に再生可能エネルギーの利用を原発、化石燃料とのベストマッチで推進すればよいことだ。折からの電力危機は、紛れもなく菅のポピュリズムがなせる業であり、老人らの熱中症による死者数の急増など深刻な実害を生じさせている。新首相は、早急にストレステストなどを進めた上で、休止中の原発の再稼働に向けて動かなければならない。毎日新聞論説委員の与良正男が、みのもんたの朝ズバで8月12日「代表選挙で脱原発の流れをストップさせてはならない。代表選まで雄叫びを上げ続ける」と宣った。よく「脱・脱原発」の動きに気付いたと褒めてあげたいが、いささか常軌を逸している。公党への内政干渉であるうえに、いかに一部のイデオロギーに根ざした「脱原発」が、民主党内の潮流に慌てふためいているかの証左でもある。「思い上がるな」と言いたい。
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