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2011-09-09 00:00
前原は党を2分する安保論議をクリアできるか
杉浦 正章
政治評論家
ワシントンで自衛隊の武器使用基準緩和と、武器輸出3原則見直しをぶち上げた民主党政調会長・前原誠司の発言が、与野党に大きな波紋を呼んでいる。早晩中国も反発するだろう。狙いは首相・野田佳彦の訪米地ならしだが、野田自身のA級戦犯発言といい、前原発言といい、民主党政権の意外な右傾化に、自民党が「食われる」傾向まで生じてきた。八ッ場ダムの建設中止発言が物語るように、歯切れがよいが、実行力が伴わないのが、前原発言の特徴だが、今回は旧社会党系など党内左派の反発は必至だ。しかし、党を2分する覚悟でとりまとめるつもりのある発言かどうかは、疑わしい。米国向けの意味合いが大きいのだろう。
発言の核心は「自衛隊とともに行動する他国軍隊を急迫不正な侵害から防衛できるようにする」「武器輸出3原則は見直すべきだ」の2点に尽きるが、中国を自国の利益のみを考えて国際ルールの変更を求める「ゲームチェンジャー」と形容したのは、実にもっともであるが刺激的だ。前原は「中国は主張するルールの特異さとその価値観の違いも大きな課題。日米が新興のゲームチェンジャーと新たな地域秩序の形成に正面から取り組むのが最優先だ」と言い切った。事前根回しがなかったと防衛相・一川保夫がおかんむりだが、いちいち駆け出し大臣に話すようなことでもあるまい。野田には少なくとも「露払いしてきます」程度のやりとりはあったのだろう。前原は、野田が武器輸出3原則緩和に前向きであることを知っており、その意味ではあうんの呼吸が背景にあったと見るべきであろう。前原は2005年12月の民主党代表時代にもワシントンで講演し、中国脅威論を強調するとともに、「集団的自衛権の行使を容認する方向で検討すべきだ」と発言している。従って持論であることは確かだ。
当時は、帰国直後の党大会で左派の集中攻撃を受け、結局うやむやになった。今回も党内左派の反発は確実だ。左派と同根の社民党党首・福島瑞穂が「よく言ってくれるじゃないの、というのが率直なところだ」と柳眉を逆立てすごんでいる。武器使用緩和は集団的自衛権の行使を認めていない内閣法制局の憲法解釈とも密接に絡む。単にPKO対策にとどまらず、小泉純一郎の「日本を守るため一緒に戦う米軍が攻撃された時、集団的自衛権を行使できないのはおかしい。日本が攻撃された場合には、米国と一緒に行動できるような形にすべきだ」という発言が象徴する日米安保条約上の問題や、米国に向かう北朝鮮のミサイル迎撃問題などの論議にもつながる。民主党内も、小沢一郎の立場は微妙だ。というのも小沢は、湾岸戦争当時の自民党幹事長で「自衛隊を派遣できずに戦費120億ドルを米国にふんだくられた」ことがトラウマになっている。以来、集団的自衛権の行使容認は、小沢の念願であり、集団的自衛権の政府解釈変更を主張する「解釈改憲派」である。しかし、小沢は左派を重視しているから、火中のクリを拾うかどうかは分からない。
一方、自民党など野党は、外交・安保でも「民主党の自民党化」が顕著になって警戒気味である。菅直人の「消費税での抱きつき」に始まって、政調会長の権限強化、事務次官会議の事実上の復活、党税制調査会の復活など、つぎつぎと「そっくりさん」化が進んでおり、今度は外交・安保での自民党化となっては、野党の存在の意義が問われる。総選挙対策で違いを強調できないのだ。逆に民主党はそこが狙いだ。前原発言に政調会長・石破茂は「前原氏の考えが法案化され、国会に提出され、自民党案と並行して審議が行われ、両党が歩み寄った形での法律の成立が望ましい」と述べているが、これはまさにお手並み拝見ということだろう。「発言を法案化せよ」とは、民主党内の論議をクリアせよということにほかならない。外交的には前原発言は米国との関係改善に前向きの一石を投じたことになり、野田訪米にはプラスに作用しよう。問題は中国に対する「ゲームチェンジャー」発言である。野田の「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」発言があって、中国の野田政権に対する警戒心を呼び起こしている最中である。野田は10月訪中で調整をしているが、前原発言の影響が出るかどうか注目されるところだ。
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