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2011-09-16 00:00
東京都の天然ガス発電所建設計画を懸念する
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
先日発表され、各メディアが報じた東京都の天然ガス発電所建設プロジェクトについては、自治体が自前で発電所を建設し、電力不足に立ち向かおうとする姿勢は評価できる。だが同時に、違和感と拙速感もぬぐい去れない。日本列島の電力切迫問題は、東北大震災での福島原発事故に始まったはず。ところが、この東京都天然ガス発電所プロジェクトは、まさに人口が集中し、工場が立ち並ぶ湾岸エリアに建設されるという。これでは大津波の一撃で機能マヒどころか、すでに今回大震災津波で発生した三陸市街、千葉の精油所の大火災の二の舞は必至だろう。さらに安全保障上も懸念がある。隣国のケースだが「~~を火の海に」との外交的脅しをかけた某国の事例を想起させる。また偶然の一致かとさえ思えるのが、この天然ガス発電所プロジェクトと並行する形で進められているロシアのアジアでの天然ガスパイプライン戦略だ。にわかに活発となったその微笑外交は韓国にまで及ぼうとしている。
筆者はかつて「麻生首相のサハリン訪問を懸念する」という一文を本欄へ書いた。自民党麻生政権時代に、エネルギー業界は、サハリン液化天然ガスを新たなエネルギー供給源の確保だとみたが、サハリンへの依存が強まれば日本はロシアの意のままになること、現にロシアのウクライナ経由天然ガスパイプライン戦略は西欧を揺さぶり続けていることを指摘し、「島国の日本は、エネルギー資源の調達に多くの海外諸国に目を向け、リスクの分散をはかるべき」とする趣旨だった。この東京都の天然ガス発電所プロジェクトと時を同じくして、ロシアによるアジア地域での石油・天然ガス供給戦略が活発化している。ロシアから北朝鮮、韓国に至る天然ガスパイプラインの建設計画だ。ロシアの政府系ガス会社ガスプロムの社長がすでに韓国ガス公社のトップと会談し、計画行程表に調印したという。
韓国へのパイプライン構想は、ロシアと同じユーラシア大陸の一部である韓国の国内問題で、ここでは論じない。一方、日本列島は韓国とはまったく事情が違う。液化天然ガスは海に囲まれた日本へはタンカーで遠路運ばれる。海外からの輸送コストが高いのが難点。そこで長期的にはパイプラインが経済的であることは理解できるが、輸入元は単一国ではなく、リスクの分散が必要だ。現に日本は、インドネシア、マレーシア、オーストラリアなど主に、アジア、オセアニア、中東から輸入し、火力発電、都市ガスなど多くのエネルギー源としている。原発に頼らないクリーンエネルギーにより近づく東京都の天然ガス発電所構想と、液化天然ガス利用は「干天の慈雨」ではあるが、隣国ロシアは、日本の液化天然ガス輸入量が世界一という点を注視していることを忘れてはならない。
昨年、日本の強い懸念を無視したロシアのメドベージェフ大統領の国後島訪問があった。海外特派員時代に東南アジア、欧州、米国でソ連・ロシアの外交を垣間見た筆者には、このメドベージェフの強行策にはロシアの何らかのメッセージが隠されている、と思えた。外交は「アメとムチ」である。当時、両国関係が冷え込むのは必至とされたが、逆に最近はモスクワからロシアの日本ブームなど、対日微笑ムード醸成のメディア情報すら流入するのが実に気になる。優に世界の一国に相当する経済規模のメガロ都市が東京都だ。その天然ガス発電所構想の独り歩きにより、近隣国にまで伸びてきたロシアのパイプライン計画に安易に参画することや、ムード的な加速材料とならぬよう、日本として自戒することが必要だろう。
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