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2006-09-22 00:00
「危険なナショナリズム」こそ「危険」
田久保忠衛
杏林大学客員教授
安倍次期政権が今後どのような方向を歩むかは予測のかぎりではないが、一部のマスメディアや一部の評論家の中に「中国や韓国のナショナリズムもどうかと思うが、日本の危険なナショナリズムも要注意である」といった主張がもっともらしく述べられるようになった。
中国、韓国と比較できるような「危険なナショナリズム」が日本にあるとすれば、先ずナショナリズムの定義をしなければならないのだが、それは全くといっていいほどなされていない。中韓両国は政府が「危険なナショナリズム」を煽り立てて暴力行為を事実上認めている。昨年は北京の日本大使館や上海の総領事館などの公館に加えられた一部中国人による暴力デモに対して中国政府はいまだに謝罪もしていない。韓国でも島根県議会が決めた「竹島の日」に抗議してソウルの日本大使館で日の丸が焼かれ、投石などの乱暴狼藉が行われたが、これに対して韓国政府が少しでも遺憾の意を示したことがあっただろうか。
日本で東京の中国大使館や韓国大使館に同様の乱暴が行われたかどうか静かに考えてみるがいい。一部右翼の街宣車が行き過ぎた行動をしたかもしれないが、規模と性格は違う。何よりも法律に違反した言動に対して日本政府は完全にコントロールできる。はっきり言えば法治国家か、そうでないかの違いだ。戦後の日本は「国家」という言葉を嫌い、国歌は歌いたくない、国旗は揚げたくない風潮がずっと続いてきた。日本にいる中国人も韓国人も祝祭日に国旗を揚げる日本の家庭がどれだけあるか知っているはずだ。
安部次期首相候補は、憲法の改正、教育基本法の改正、集団自衛権の行使など数々の意見をこれまで公けにしてきたが、これは戦後の日本が「異常」であったのを「正常」に戻そうとの試みを述べているだけであって「危険なナショナリズム」とは次元の違う話だろう。安倍次期首相候補があれだけ多数の自民党員の支持を受けたのはそれだけの意味がある。安倍、麻生両氏の支持票を加えた数から判断してもいい。両氏の主張にさほどの相違はないからだ。政治家は国民の動向にはことのほか敏感な人々である。いま日本の人々の間に静かに生まれている潮流がどこに向かっているかは知りつくしていると見ていい。
日本の論壇では、「左は悪いが、さりとて右も悪い」とか、「右は悪いが、さりとて左も悪い」といった喧嘩両成敗的な言論がいかにも良識を代表しているかのように考えられてきた。実際にこの手の主張で世渡りをしてきた言論人もいたが、中韓両国のナショナリズムと日本にあるかないかもわからない「ナショナリズム」を同列に並べて「危険だ」と論ずることがいかに危険かを知るべきだ。
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