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2011-10-13 00:00
大勲位殿!野田長期政権は無理です
杉浦 正章
政治評論家
なにしろ大勲位だから、元首相・中曽根康弘の発言はちょっと見では“重み”がある。それに首相・野田佳彦を「長期政権」と予言したのは、政界で初めてであるから、注目を集める。かつては田中角栄や福田赳夫、三木武夫らあまたの実力者の中で、うろちょろして“政界風見鶏”の別称があったくらいだから、中曽根は「よいしょ」もうまい。こういうほめ方は最初に言った方が勝ちなのだ。しかし、本当に長期政権かというと、まだまだ疑問だ。政権発足3か月のハネムーン期間中の「長期」か「短期」かの予測などは、たいてい外れる。「当て事とふんどしは向こうから外れる」のだ。戦後の長期政権は、佐藤栄作、吉田茂、小泉純一郎、中曽根康弘の順だが、共通項と言えば徹底した「保守」の政治であろう。野田は、自他共に許す「保守」だから、この条件はクリヤしている。なにしろ松下政経塾の1期生で、松下幸之助の薫陶を受けている。松下の薫陶を受けたのは3期までだから、8期生の前原誠司や玄葉光一郎とは格が違うのだ。
日本の首相にとって「保守」ほど重要な条件はあるまい。政界、財界、官界首脳らに安心感をもたらすのだ。鳩山由紀夫や菅直人が自壊したのも、何をするか分からない“革新性”の危うさが原因だ。おまけに菅のように、首相が北朝鮮とつながっていては信用出来るわけがない。野田も、松下の薫陶を意識した政治を行っている。松下塾には、松下が作った塾是・塾訓に加えて、より実践的な「五誓」があるが、これを実行している。例えば「いかなる人材が集うとも、和がなければ成果を得られない」は、「適材適所」人事で発揮された。臆面もなく小沢を支持しているのも「和」優先だ。松下は著書『指導者の条件』のなかで、親疎の区別をしない一視同仁を強調している。「感情的な対立が、相手に対する憎しみといったものにエスカレートし、それが争いをより深刻、悲惨なものにする」という遺訓が、小沢に対して実行されている。加えて鳩・菅が失敗した政治主導・官僚排除も、野田は逆を実践している。「指導者は自分より優れた才能の人を使うことが大事である」という「松下条件」を守っているのだ。
長期政権の4人の中で、野田があえて誰と似ているかを言えば、熟慮系の政治家の佐藤栄作だろうが、“野田ミニ佐藤”が長続きするかは、そのほかの前提条件が多すぎる。まず佐藤のライバル河野一郎が急死したように、目の上のたんこぶ小沢一郎がこの世からいなくならねばならない。政治家にとって、たんこぶとライバルの消失ほど大事な“つき”はない。中曽根も、田中が脳溢血となってはじめて長期政権の展望が立ったのだ。中曽根が田中入院を知って、失礼千万にも、また浅薄にも、一日中上機嫌を隠さなかったことを覚えているが、先の小沢の入院も、野田にとっては、もし深刻だったら僥倖(ぎょうこう)たりえた。一瞬野田は「はっ!」と愁眉が開ける思いがよぎったに違いない。
中曽根の10月12日の発言は、新聞によって異なる。「低姿勢でまじめにやれば、長期政権になる」(朝日、毎日)と「正直な人間性を見せれば、長期政権になる」(読売)に分かれた。しかし、低姿勢で正直な首相は数少ないものの、結構いた。その意味で「中曽根条件」はアバウトすぎる。最大の条件は、なんといっても総選挙に勝てるかどうかだ。野田の支持率は当初の60~70%から各社とも10%前後急落している。今後復興増税と消費増税の2連発を庶民の懐に浴びせるわけだから、いくら正直でもまじめでも、支持率は落ち続ける。かつて増税で支持率が上がり、選挙に勝った政権はいない。小沢が、今の政治状況で衆院解散・総選挙が実施されれば「どの政党も過半数を取れず、大混乱になる」という見方を示したが、これは事実だろう。むしろ民主党への不信が鳩・菅政治で抜きがたいものになっており、依然として大敗は不可避だろう。長期政権どころか、野田は政権を失いかねないのだ。当然野党はそこを狙って攻勢をかける。おまけに過去5代の首相が短期に終わった最大の原因は、衆参ねじれであり、野田もそのくびきからは逃れられない。こうみてくると、松下の薫陶を受けた野田には長期政権の「素質」はあるかも知れないが、現実政治がそれを許さない状況が見えてくる。このような核心のポイントを見逃している大勲位も老いたものだ。
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