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2011-10-24 00:00
アジアへ戦略回帰した米国
鍋嶋 敬三
評論家
米韓自由貿易協定(FTA)は両国間の経済関係の発展にとどまらず、将来、アジア太平洋地域の戦略的関係に大きな影響をもたらすことに注目する必要があろう。オバマ米大統領は10月13日、国賓として迎えた李明博韓国大統領との首脳会談後の記者会見で、「米韓同盟の転機」との位置付けをした。米韓FTAは「経済同盟の始まり」であり、軍事、政治的な同盟を「全く新たな水準に引き上げる」と評価し、さらに北米とアジアの結びつきを強化する「ゲートウェイになろう」とまで言い切った。その先に見ているのは貿易完全自由化を目指す環太平洋パートナーシップ(TPP)協定であろう。
米韓FTAは共和、民主両党が激しく対立する米議会を通過、オバマ大統領が署名して2012年1月にも発効する見通しである。2015年までに輸出を倍増させるというオバマ大統領の公約に沿うもので、オバマ大統領への政治的な支援になった。同盟の「証し」には口先ではなく、国内の犠牲を払ってでも約束を実行に移す指導力が必要だ。これで米国の韓国への信頼は高まり、米韓同盟の拡大強化に大きく役立った。北朝鮮の核・ミサイルの脅威、大国としてのし上がる中国を横にみて米国とのFTAは韓国にとって貿易よりも大きな戦略的なメリットがある。韓国の中央日報が社説で軍事同盟が政治、経済、文化などすべての分野にわたる「多元的同盟関係に進化した」と評価したのもうなずける。
オバマ大統領が10月22日イラクからの米軍完全撤退を発表、米国のアジア回帰が本格的に動き出す。クリントン国務長官は10月、外交誌「フォーリンポリシー」への寄稿文で米外交はイラク、アフガニスタンからアジアへと「転換点」に立ったことを強調した。長官はこれからの10年間、米国の最重要課題はアジア太平洋における外交、経済、戦略等々の集中的な投資にしっかり組み込むことにあると宣言した。アジアの成長とダイナミズムを利用することは米国の戦略的利益であり、オバマ大統領にとっての重要な優先事項であることを力説した。米国の将来がアジア太平洋の将来と「深く絡み合って」おり、この地域への戦略的回帰が米国の世界的指導力維持のための努力とぴったり合致するものだと強調してやまない。
クリントン長官は米国の外交資産をフル活用する「前進展開」外交推進のため以下の6つの行動方針を明示した。(1)2国間安全保障の強化、(2)中国を含む新興国との実務関係の深化、(3)地域の多国間機構への関与、(4)貿易、投資の拡大、(5)広範な軍事プレゼンスの形成、(6)民主主義、人権の進展。同盟を単に維持するだけではだめで、常に変化する世界に対応できるよう更新して行かねばならないことも指摘している。オバマ大統領の当面の最大の外交課題は11月にハワイで主宰するアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議である。「アジア太平洋で最も重要な地域経済機構」(クリントン長官)と位置付ける米国は貿易、投資の自由化促進、APECの強化を目指す。
外交交渉は国益全体を賭ける真剣勝負だ。「木を見て森を見ず」-国内の特定産業の利益を押し通そうとするのでは世界を相手の交渉は成立せず、国益を損なうのは自明の理である。日本が自由化の流れにあらがっていては産業の空洞化、ひいては国力の衰退を免れない。米国は外交の最重要課題としてのアジア太平洋戦略構想を打ち出した。米国が主導権を握るTPP交渉への参加問題も日本に残された時間は少ない。9月の日米首脳会談で「早期の結論」を約束した野田佳彦首相は日米同盟を確実なものにするためにも、政策調整に指導力を発揮し交渉参加を速やかに決断すべきである。
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