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2011-10-25 00:00
(連載)中国の程永華駐日大使の講演を聴いて(1)
河村 洋
NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
去る10月13日に日本国際フォーラムの主催で中国の程永華駐日大使を講師に迎えて、第74回外交円卓懇談会「日中関係の現状と今後の展望」が開催された。程大使は中国国務院新聞弁公室が今年の9月6日に発表した『2011年版中国の平和的発展』白書を携えながら、「中国が発展することは世界の公益に叶う。日中両国は体制とイデオロギーの違いを超えて経済から関係を強めるべきだ」と訴えた。参加者数は、日中両国の関係に対する関心の高さを反映して、通常時の3倍近い多人数となり、そのため会場も、日本国際フォーラムの会議室ではなく、国際文化会館の講堂に移された。講演のあと、数多くの質問が寄せられたが、そうした質問にどんな些細な点にも答えようとした程大使の姿勢には、多いに感銘を受けた。しかし中国の政策が本当に、程大使が講演で述べたように「平和的」で、「ウィン・ウィン」で、「覇権を求めない」ものなのだろうか?また、質疑応答時に出された質問の多くも、現在の日中関係からすれば、あまりに「友好的」なものが多かった。真の日中相互理解には、もう少し厳しい質問が出てもよかったと思われる。そこで、本欄を借りて、以下の4つの疑問をぶつけてみたい。
第1に、中国の「歴史認識」と「東アジア観」について疑問を述べてみたい。中国では知識人から一般市民に至るまで、自らの国力増大を背景に、「アヘン戦争以前の地位を取り戻す」いう議論が強まっている。アヘン戦争以前の中国と言えば、冊封体制により周辺諸国を中華皇帝の朝貢国として扱ってきた。イギリスと清朝の間で戦争が勃発したのも、英国の求める対等な自由貿易が受け容れられなかったためである。このような事態を考慮すれば、「中国は、少なくともウェストファリア体制を認めていた英米以上に、『覇を唱えようとしている』国なのではないか」との疑問を抱く。そうした疑問を強くした理由の一つは、程大使が講演で述べた「地域協力」が「日中韓+ASEAN」の協力形態に集中し、オーストラリアやニュージーランドには全く言及がなかったためである。また、ヨーロッパと同様に、アジアの地域協力においてもアメリカの支援は不可欠である。「日中韓+ASEAN」による地域統合の構想には、「白人国家の排除」による「黄色人種連合」の結成を想起させるものがある。もしそうであれば、中国が主張する地域協力とは、かつての冊封朝貢体制の復活になるのではないか、との疑問を抱かれても仕方ないであろう。そのような地域協力なら、東アジアのどの国も望まない。
第2に、中国が国際社会の公益と大国間のパワー・ゲームのどちらを重視するのかを問いたい。その具体的な試金石となるのは、核不拡散である。特にイラン、北朝鮮、そしてパキスタンに対する中国の政策を検証する必要がある。イランと北朝鮮について、中国はいずれに対しても非核化を要求する国際交渉に参加はしているが、両国への制裁には及び腰である。北朝鮮に対しては、「中国は核問題の解決よりも、キム体制の維持に熱心なのではないか」との見方が日本では広まっている。またイランに対しては、中国は原子力発電所の建設を支援したばかりか、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツの制裁強化に、ロシアと共に反対し続けている。中国は核不拡散よりも、石油資源の確保と欧米に対する地政学的競合の方に熱心なのではあるまいか?
両国以上に問題なのはパキスタンである。インドがアメリカとの原子力協定を皮切りに、先進諸国ばかりかロシアとまで類似の協定を結んだことに対抗するかのように、中国はパキスタンと原子力協定を結んだ。これは単にインドとパキスタンの核競争の激化につながるにとどまらない。パキスタンはテロリストへの核拡散という点で大変な問題を抱えている。かつては、カーン・ネットワークが存在し、最近ではビン・ラディンの潜伏に加えてハッカーニ・ネットワークのアメリカ大使館攻撃をISIが支援したという疑惑まで浮上している。とてもではないが、パキスタンはインドのように「核拡散に全く手を染めていない」と胸を張れる立場ではない。そうしたパキスタンと原子力協定を結んだ中国には、「国際公益よりもアメリカおよびインドとの地政学的競合を優先させているのではないか」との疑惑の目が向けられても仕方がない。(つづく)
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