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2011-11-02 00:00
TPP交渉参加後の撤退可能性への言及はいただけない
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
TPP(環太平洋経済連携協定)の第9回交渉会合が10月19~28日の日程で、ペルーのリマで行われ、11月にハワイで開催予定のAPEC首脳会議において大枠合意がなされる可能性が一層高まった。第9回交渉会合では、関税撤廃、知的財産、環境規制など21の分野で交渉が行われ、ペルーのバスケス首席交渉官によれば、「全ての分野で進展があった」とのことである。また、電気通信サービス、貿易の技術的障害、といった複数の分野で、交渉が妥結に向かっているようだと、報じられている。
TPPの通商的側面から言えば、我が国は、既に乗り遅れているという他はない。このような状況にあるにも関わらず、例えば、民主党の前原政調会長が、「条件が不利な場合には交渉参加後に撤退することもあり得る」と言っているのは、全くいただけない。前原氏はTPP推進論者であり、その発言の意図は、党内の反対派への配慮である。しかし、そのような国内向けの議論は、百害あって一利なしである。理屈からいえば、交渉というものは、条件が折り合わなければ撤退するのは、あまりにも自明なことである。それゆえ、わざわざそんなことに言及すれば、関係国の信用を損ね、疑念を惹起する。
米国のワイゼル首席交渉官は、「参加の決断は前もってなされるべきである。真剣な意思を持たない国には来てほしくない」と、強い表現で牽制している。TPPに関する交渉は、既にルール作りの大枠が出来上がりつつある。そこに遅れて参加する我が国が、条件が不利ならば交渉から撤退するなどと言えば、著しく信義に反する。我が国は、交渉を複雑化させる撹乱要因と見なされても仕方がない。TPPを純粋に通商問題と捉えるならば、余計なことを言わずに不参加を表明する方が、筋の通った決断である。例えば、韓国はTPPではなく米韓FTAを選んだ。しかし、TPPへの不参加が我が国の産業にとって断然有利かといえば、そうではないし、TPPは通商問題にとどまらない重要な戦略的ツールである。すなわち、環太平洋の各国が自由貿易の旗の下に結集し、中国が目指している経済ブロックに対抗するという重要な意味がある。
これに我が国が加わることは、関係各国にとって極めて歓迎すべきことであるはずだが、今や我が国の決断の遅さは、逆に関係各国を苛立たせる要因となっている。俗な表現をさせていただくと、我が国は、自らを高く売りつけ損なった、ということになる。ただ、それでも、TPPに参加しないよりは、した方がよく、野田首相の決意も固いように見受けられる。また、玄葉外相も、TPP交渉参加後の撤退は理論的にはあり得ても、実際問題としては不可能だと言っている。国内・党内の一部の歪んだ論理を排して、正しい判断が下されることを強く要望したい。
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