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2011-11-12 00:00
(連載)今次、TPP交渉参加の問題点(2)
島田 晴雄
千葉商科大学学長
(3)貿易財の関税の撤廃、非貿易財に関する総合的な国際ルールの策定といった遠大な目的をかかげるTPPだが、こうした交渉は二国間交渉でも相当の準備と時間がかかる。ましてこれまでの経験が示しているようにGATTとWTOといった多国間交渉ではあまりに時間がかかってラチが開かないので、世界中で、多くの地域自由貿易協定が結ばれてきた経緯がある。今回のTPPで不可解なことは、2国間交渉でもすくなくとも数年以上の時間がかかりそうな膨大な課題を掲げているにもかかわらず、多国間交渉というテコを使って、それを1~2年で達成しようという拙速さは理解しがたい。しかも日本が11月のAPECハワイ会議で参加表明をしても、実際の協議に参加できるためには既参加国での検討に半年以上に時間がかかるとされ、実際の参加は来年の夏頃になると見込まれるという。その間に、参加国の間で実質的な協議がさらに進み、日本の交渉余地はさらに狭まるおそれがある。
(4)情報がほとんど欠如ないし著しく不足したままで参加の意思表明が迫られるという異常な状況に対し、前原誠司氏ほか若干の政治家が、「参加した後で交渉の展開によっては離脱もあり得る」とコメントしたが、これに対してアメリカ政府の高官が直ち「我々は真摯な参加国のみを歓迎する」と反論したと伝えられる。このやりとりは前原氏他の方が自然に思える。アメリカには何か急がなくてはならない特別な理由があるのだろうか。
こうした状況をふまえると、11月のAPECハワイ首脳会議では、野田首相がかりにTPP交渉への参加表明をするとしても、それは今後の交渉のあり方、進め方について特別の覚悟をもって臨む必要があると考える。自由貿易を促進するというTPPの趣旨は望ましいものとしても、日本にとって大きな構造や制度の改革を必要とする国際協定への参加にあたって、これまでに累積した情報不足や交渉の余地の縮小といういわば”負の遺産”を叶う限り解消する効果的な交渉努力が何よりも重要である。もし日本の国益を守りかつ促進するうえで、充分な情報と交渉の余地が確保し難い状況であるならば、ハワイのAPEC首脳会議では、参加発言を見送る選択肢もあり得ると思う。カナダは参加表明になお慎重であり、その慎重さには一理がある。
TPP交渉参加を急ぐべきだとの見解には、自由貿易促進という一般論の他に、(1)重要な同盟国アメリカに協力すべき、(2)交渉参加が遅れるほど情報ギャップが大きくなり交渉の余地が狭まる、(3)アメリカとの2国間協議よりも多国間協議の方が交渉の範囲を広くとれる、(4)多国間協定を進める方がやがて中国などを取り込みやすくなる、などの論点が含まれているようだ。そのうち(1)は重要であるとしても、(2)の不利性は変わらない、そして(3)と(4)の現実性は自明ではない。日本という経済大国にとっては、本来は、最大のパートナーであるアメリカと真摯に自由貿易協定を結ぶ方が、望ましい戦略ではないかと思う。その点では韓国の知恵に学ぶところがあるように思う。
野田首相は、ハワイのAPEC首脳会議で、かりにTPP交渉への参加表明をするにしても、国益と世界益を真剣にふまえ、場合によっては今回は参加を見送る、あるいは、日米自由貿易協定を結ぶ努力もありうることを視野に入れつつ、もし参加するなら、これまでの情報ギャップを充分に解消し、日本が充分な交渉の余地を確保できるよう、覚悟を決めて、効果的な意志表明をしてもらいたいと思う。(おわり)
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