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2011-11-17 00:00
TPP反対では自民党「政権」は無理だ
杉浦 正章
政治評論家
政権離脱からたった2年でもう野党ぼけが始まったのだろうか。環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐる自民党の政権攻撃は、内閣不信任案や問責決議案の上程まで視野に入れ始めており、「暴走」の状況に陥る危険性を秘めている。党内は賛否が分かれたまま、執行部が独走の形で“何でも反対野党”路線を突っ走っているとしか思えない。総裁・谷垣禎一は、TPPが日米同盟深化に直結することを理解出来ずに、中国配慮の発言をするまでに至った。これでは保守層まで逃げる。「自民党よ、気は確かか」と言いたい。2日間にわたる参院予算委の質疑を聞いて、自民党と他の野党の“度量”の違いをまざまざと見せつけられた。公明党にせよ、たちあがれ日本にせよ、ユーモアを交えながらも急所を突くゆとりがあったが、山本一太をはじめ他の自民党質問者は、まるで噛みつき犬やスピッツ状態で、本質を突かずにきゃんきゃんと吠えまくり、聞く者に不快感だけを残した。自民党の追及の手法は、鳩山由紀夫、菅直人という希代の無責任政権に対しては効き目があった。しかし柳の下のドジョウは2匹までだ。「敵失」追及の手法ばかりにこだわっていて、政権の変化に気づかない。
いちおうまともな「普通の政権」に立ち至った段階でも、まだばかの一つ覚えのような追及手法を繰り返しているように見える。これでは財界までが見放し始めたのも無理はない。とりわけあきれ果てたのが、谷垣のTPPに関する発言だ。なんと「米国と組み過ぎて中国やアジアをオミット(除外)する形になったら、日本のためによくない」と宣うたのだ。しかし、そもそも自民党政権は歴代「米国と組み過ぎて」日本の繁栄を導いてきたのであり、「まず日米同盟ありき」ではなかったか。その信条を変えるのか。また自民党の路線は自由貿易の拡大にあったはずだ。加えて大局を見れば、中国の軍事重視の拡張路線には歯止めが必要であり、TPPは即ち「同盟深化・対中けん制」に直結するのだ。大局が分からない自民党執行部の姿勢は、小じゅうとのように重箱の隅を突いているにすぎない。自民党は、かねてからの同党の主張を野田政権が“抱きつきお化け”のように取り入れて、推進し始めた結果、追及しあぐねているのだ。米国の外交力をまざまざと見せつけられたのが、日本が参加の意思表示をした直後に、カナダとメキシコの参加を発表したことだ。
これが逆だったら、また日本が参加表明していなかったら、日本の外交は目も当てられない結果となっていただろう。米国が日米同盟への配慮を優先してくれたと受け止めるべきだろう。経団連会長・米倉弘昌会長が「もし参加表明しなかったら、外交の孤立を招き、国際的な信頼が失われていた」と述べているが、米倉は歴代会長の中でももっとも大局観がある一人だ。自民党を「自民党が次の選挙で復権したら、今やっていることが足かせになったらもっと困るでしょう」と批判したのも、当を得ている。自民党のTPPへの対応の構造的欠陥は、執行部が党内の意見とりまとめをちゅうちょしたまま、政権批判を繰り返しているところにある。谷垣のリーダーシップの欠如を物語るものだ。少なくとも民主党内は侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論を展開した。自民党の問題は、世論の動向を掌握していないことでもある。朝日も読売も世論調査ではダブルスコアで推進論が多い。それにもかかわらず衰退一方の農村票と旧態依然たる農協組織票を意識して、TPP反対に傾斜する。選挙戦術の方向も誤っているとしか思えない。自民党が復権する唯一の道は、農村票ではない。都市部の浮動票をいかに取り込めるかにある。小泉純一郎の選挙を見習うべきだ。
それにもかかわらず、自民党執行部は、谷垣も、副総裁・大島理森も、幹事長・石原伸晃も、一致して臨時国会への内閣不信任案と問責決議案の上程に前向きの発言をしている。しかし、党内には前政調会長・石破茂のように「外交は内閣の専権事項だ。交渉すらするなと言うのは、議会としていかがなものか」と執行部を非難する声も公然と生じている。おそらく石破は、不信任案にも反対だろうし、党内もまとまるまい。だからTPPだけで野田政権を一挙に追い込むのは無理があるのだ。野田は否定しているが、仮に不信任案が成立して、野田が解散に踏み切った場合はどうなるか。国論を2分するTPP選挙となるが、少なくとも世論の支持がある民主党に有利で、自民党が勝てる選挙にはならないだろう。谷垣は、当初は交渉への参加を認める発言をしていたのは、周知の事実だ。迷いがあるなかで、不信任だの、問責だので、暴走すれば、落とし穴に落ちるのは自民党だ。TPPの交渉参加は認めるしかない。解散に追い込むのなら、消費税法案や「政治とカネ」などの材料が出そろう来年春以降を狙うことだ。
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