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2011-11-28 00:00
米中ウォームワー(温戦)の始まりと日本の役割
松井 啓
元駐カザフスタン大使
米ソ冷戦(コールドワー)期には大量殺戮兵器の恐怖からホットワーにはならず、資本主義と社会主義のイデオロギーとそれに基づく政治・経済システムにより世界は東西に二分されていた。ベルリンの壁の崩壊によりこの二極構造の壁も溶界解し米国の「一極支配」は長続きせず、政治構造は多極化・分極化し、経済はグローバル化し危機は津波のように国境を越えて波及し、様々な全人類的課題が顕在化した。そんな中で、BRICsと呼ばれる新興経済諸国の中でも共産党独裁を維持しつつも資本主義の手法を採用した中国の経済発展は目覚ましく、2010年にはGDPで日本を抜き米国に次ぎ世界第2位となり、更に軍事面でも毎年2桁の予算の拡大により、特に海軍の増強は周辺諸国のみならずアメリカの懸念を惹起している。
米国は中国と政治経済軍事面で直接対話を試みたが(G2)諸問題の解決には役立たないことを悟った。日本は2011年は米中ウォームワー(温戦)の始まりととらえ、自己の果たせる役割を真剣に検討すべきである。この二極構造崩壊後のグローバル化の進展の過程で、特に経済面で種々のグループが形成されていることは、1929年の世界経済大恐慌期に英仏がポンド・ブロックとフラン・ブロックを固め保護貿易政策を取ったため、植民地を持たない独日伊は強硬政策を打ち出し、第2次世界大戦前に突入したことを想起させる。日本は明治の開国後「富国強兵」不平等条約の改定、「持たざる国」として既存国際秩序への挑戦、海軍の増強、大陸及び海洋への進出を図り、大局的なパワーバランスを見誤り、最終的には太平洋戦争に突入し、壊滅的な打撃をこうむることとなった。
中国の台頭はこの軌跡の後追いのように、国家資本主義体制により経済発展を遂げ、特に海軍力の増強は周辺国の懸念を惹起している。中国はアセアンのようなグループを分断して二国間のみで紛争の解決を図ろうとしてきたが、日本をはじめとする周辺国や米国の動きを見つつこれら諸国の警戒心を和らげようと軌道修正し、中華朝貢体制確立の夢は捨て大国たる責任を徐々にではあるが理解してきているように見られる(中国外務省の本年9月発表の「2011年版中国の平和的発展」白書)。引き続き経済成長が期待されるアジアは世界経済のグレートゲーム展開の場となっている。冷戦時代と異なり経済面では米中は密接に絡み合った関係であるので、両国は正面切っての軍事的対決は避けたいであろうが、お互いの国際的・国内的面子もある。またロシアも再び東進を試み関与を強めてくるであろう。
日本はこれまでユーラシア外交、自由と繁栄の弧を提唱したが、継続的な政策とは成り得なかった。他方、汚染大気や海水(産業排気、原発事故)、自然災害(津波、地震台風)、渡り鳥(病原菌)、更には金融危機、IT犯罪は国境の枠には収まらずその解決には国際的協力が必要となってきている。東アジアでは中国、韓国、アセアン諸国、米国、ロシア、更にインドやオーストラリアにとっても、日本は地政学的位置、経済力、軍事力のいずれを取って見てもこれら諸問題解決のキープレイヤーとなり得る。今や日本は米中の対立のバランサーとなり、東アジア、太平洋地域において平和と安定、繁栄と安全の確立・維持の枠組み構築に積極的なイニシアチヴを取るべきである。その際には日本の国益ばかりにとらわれず、長期的な地域益、国際益を見極めつつ、誠実な仲介者に徹すべきことは言うまでもない。
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