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2011-12-01 00:00
党首討論で野田がなぜ勝ったか
杉浦 正章
政治評論家
大震災で嫌々お見合いしていた与野党が、ついに“破談”に立ち至った。それも首相・野田佳彦と自民党総裁・谷垣禎一の党首討論は軍鶏(シャモ)のけんかのように、不毛の蹴飛ばしあいに終始した。総じて、谷垣の追及に迫力を欠き、6.5対3.5で野田が勝った。勝敗を分けたのは、野田が焦点である環太平洋経済連携協定(TPP)参加と消費増税で世論の支持を背景に地歩を築いたにもかかわらず、正面切って反対と言い切れない谷垣が、手続き論に終始した結果だ。本来党首討論は大政党のリーダーらしく、じっくりと国政の在り方を双方向で議論する場であったはずだ。ところが谷垣は、対話どころか、内容に欠ける揚げ足取り質問に終始した。これでは一般議員の予算委の点数稼ぎ質問と変わらず、野田に作戦負けをした。無理もない。TPPでは、幹事長・石原伸晃が参加に前向きの姿勢を見せているように、最終的には参加を是認するしか道はなく、消費税では参院選で10%への増税を公約しており、本質的な差異がないからだ。従って、谷垣は核心を突けず、勢い手続き論に傾斜せざるを得なかったのだ。
民主党がマニフェストに事実上「消費税反対」と書いて、総選挙に勝って、今度は推進することがけしからん、と言っても、消費税導入が必要であるという大局の認識では変わらない。結果として、重箱の隅を突っつく追及となったのだ。早期解散・総選挙で政権奪回に持ち込みたいという焦りが、質問を上滑りさせたのだ。マニフェスト違反の政権の欺瞞(ぎまん)性は国民が審判すればよいことであり、消費税の是非とは本質的に違う。政権が自党と同じように消費税に前向きに転じたのであれば、これを是認する大人の寛容さが必要だ。そうした自民党の抱える矛盾を、野田は逆襲した。TPPに関しては、野田は谷垣が当初は「交渉に参加することまで反対できない」と述べていたにもかかわらず、その1週間後にAPECでの参加表明に反対したことをとらえて、「立ち位置を示せ」と迫った。消費税に関しても、自民党の財政健全化法案に「超党派会議で政府の素案を検討するとある」と指摘、素案の段階での与野党協議を求めた。TPPに関して、谷垣は「政府から情報が全然伝わってこない」と反論したが、これは自業自得だ。外務省も、経産省も、何でも反対野党化した自民党に情報を渡すわけがないではないか。いまや官僚も自民党を「情報を渡しても安心な政党」とみなさなくなったに違いない。
最後に谷垣は「国民との信頼関係なくして、国家の大事を成し遂げられるはずがない。だから信を問うて、足腰を鍛え直して、出てこなければならない」と取って付けたように解散・総選挙要求したが、野田に無視された。逆に野田は「同じ思いがあるのなら、国民のために成案を得るよう、お互いに努力しよう」と呼びかけたが、確かにに「賛成だが、反対」という谷垣の主張には無理がある。党首討論の傾向は、一貫して党首が言いっ放し、けなしっぱなしの風潮が定着してきたが、とりわけ今回は、その傾向が目立った。背後に解散綱引きへの思惑があるのだが、これでは進歩がない。問題は質疑の時間が少なすぎることだ。谷垣の場合も持ち時間が40分では、相手を切ることに精一杯となり、じっくり本質をえぐるところに至るまい。すくなくとも3時間は時間を取って、怒鳴り散らすのではなく対話形式で、問題の本質をえぐり出す形が必要だ。
結果的に党首討論を通じて鮮明になったのは、国の命運を左右するTPPと消費増税において、民主、自民両党に大きな差異がないという点であろう。谷垣はそこを、手続き論で攻めようとするから無理がある。もし自民党が政権に復帰したらどうするのか、を考えるべきだ。ここは潔く国家百年の大計を優先させて、対決と協調を是是非非で判断すべき時ではないか。谷垣は消費税を「素案でなく、成案を閣議決定せよ」と言うが、素案の段階から与野党協議に応じて、自民党の主張を取り入れさせる方がまっとうな政治だ。民主党内で小沢一郎が邪悪な消費税反対論をぶち始めており、谷垣は野田のお手並み拝見といきたいところだろうが、むしろ逆に野田サイドに立ってはどうか。いずれにしても、TPPも消費税も、総選挙の焦点になっても、争点にはなりがたい。議論としては双方痛み分けなのだが、捨てておいても次の総選挙では、消費増税が影響して、政権政党であるが故に、民主党が有権者の腹いせにあって負けるのだ。谷垣はそこに理解が至らない。ドジョウに食われるようでは、討論後のドジョウ屋の酒もさぞや苦かったことだろう。
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