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2011-12-05 00:00
米中関係の慎重なマネジメントが不可欠
鍋嶋 敬三
評論家
オバマ米政権によるアジア太平洋回帰戦略はクリントン国務長官のミャンマー訪問で一応締めくくられた。国務長官として半世紀ぶりの訪問は同国の民主化促進、改革を後押しする狙いだが、インド洋への出口を求める中国に対するけん制でもある。日本がアジア太平洋の新たなパワーゲームに対応するに当たっては、米国の戦略転換が巻き起こした地域の複雑な状況を十分考慮する必要がある。米国の再関与政策は東南アジア諸国にさまざまな反応を起こした。米国の後ろ盾を得て、ほっとしているのは南シナ海で中国と領有権争いを演じているフィリピンとベトナムである。ベトナムはベトナム戦争中、米軍最大の海軍基地であったカムラン湾への米艦船寄港を認めるほどの安保協力姿勢を鮮明にする遠交近攻策の一方で、中国包囲網と受け取られないよう外交的配慮も欠かさない。
慎重派の筆頭はインドネシアである。東南アジア諸国連合(ASEAN)の2011年議長国であり、中国、米国も参加した東アジア首脳会議(EAS)では海洋安全保障の重要性を明記した首脳宣言をまとめたが、オーストラリアへの米海兵隊駐留問題が米中対決の火種になることを強く警戒している。米中間のしのぎ合いに身をすくめているのがミャンマーとカンボジア。EASで南シナ海問題を取り上げることに猛然と反対した中国に対して18カ国中16カ国が発言したが、この2カ国だけはだんまりを決め込んだ。国内のインフラ建設で中国の存在がますます強まっているだけに、うかつにものは言えなかったのだろう。ASEAN議長国は2012年カンボジア、2014年にミャンマーの予定だけに中国を意識しないわけにはいかない。米中どちらともうまく付き合っているのがシンガポールだ。海軍基地の使用を米軍に認める一方で、リー・クアンユー元首相はじめ太いパイプで中国と友好的な関係を続けている外交巧者である。
インドが新たな焦点として浮上した。米豪安全保障体制が強化されたが、インドを加えた3カ国安保構想も飛び出し、中国軍部は「中国包囲網」だと猛反発していると伝えられる。11月28日開催予定の国境紛争を巡る中印高級会談が直前に中国側から取り消された。中印対立にはさまざまな要素が重なるが、最近はインドがベトナムと南シナ海での油田共同探査に乗り出す計画に中国が反発、米国の新戦略にインドが乗る傾向が強まったことも背景の一つに考えられる。
米国の再関与がアジア太平洋の不安定要因になるか?米中の相互不信が増幅されれば、地域の緊張が高まり不安定さが増すことは避けられない。ASEAN諸国が困惑の色を隠せないのは「米中どちらにつくのか」と選択を迫られる恐れがあるからだ。小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題で日中関係が悪化した時、アジア諸国が直面したのと同じ構図だが、米中両国が地域に持つ重みを考えれば、影響は当時の比ではない。2012年の大統領選挙でオバマ氏が再選されず共和党政権になった場合のアジア太平洋戦略によって地域情勢は大きな変化をまぬがれない。来年以降、国力の小さな国が議長国になるASEANの結束が保てるかも焦点になる。一方で中国の影響力は域内でますます強まる。米中関係の慎重なマネジメントが地域の安定には不可欠である。
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