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2011-12-25 00:00
北朝鮮問題は中国問題―重要なのは長期的視点
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
北朝鮮の金正日死去以来、後継者金正恩の経験不足、それを補うための軍事的冒険、金一族を巻き込んだ権力闘争、といった、北朝鮮情勢に関する目先の予測に関する言説が乱れ飛んでいるが、こうした言説が重要ではないとまでは言わないにせよ、情報過多の割に、いささか隔靴掻痒の憾みがある。さらに、脱北者の証言をもとにして、あたかも体制崩壊間近であるかのような報道も散見されるが、これなどは見当違いというべきであろう。もちろん、短期的に見て、北朝鮮が、金正恩の指導者としてのカリスマ性を高めるための何らかのアクションを起こすということは、ありそうな話である。ただ、その場合、どのような行動に出るのかというのは、およそ予想がつく。弾道ミサイルの発射実験か核実験であろう。延評島砲撃事件のような事態は想定しがたい。
金正恩の指導者としてのカリスマ性を高めるということは、とりもなおさず「先軍政治」を確固たるものにすることが目的である。実際の軍事行動に出れば、かえって体制が揺らぐことは彼らが一番よく知っている。権力闘争も可能性なしとはしないが、結局は軍は「先軍政治」の維持を最優先に行動し、軍事独裁体制を揺るがす事態とはならないであろう。弾道ミサイル発射実験や核実験が行われた場合、いささか語弊のある言い方になるが、ルーチンのようなものであり、日米韓がやることは決まっている。すなわち、経済制裁の強化である。そして、弾道ミサイルが日本列島を越えるようなコースをとるならば、2009年になされたごとく自衛隊法82の2に基づく破壊措置命令を出すまでである。既に経験済みのことでもあり、現場は戸惑うこともあるまい。核実験に関しては、中国が厳しい態度をとらざるを得なくなる可能性が高いので、北朝鮮にとってハードルが上がると思われる。
今、少し触れた通り、北朝鮮情勢にとって、中国ファクターは極めて比重が高まっている。直接的には、北朝鮮の対中依存度上昇という形で表れているが、中国による対米牽制が根底にはある。米国は、最近「アジア回帰」を明確にしているが、中国はこれに対抗するために北朝鮮を「衛星国化」し、影響力を行使しようとしている。北朝鮮を緩衝地帯として重視していると言ってもよい。中国にとって、鴨緑江で米国側と対峙するのと、北朝鮮が緩衝地帯となるのはどちらがよいか、自明のことである。したがって、中国は、何としてでも北朝鮮を消滅させないよう努力する。北朝鮮の体制崩壊による民主化論は、残念ながら、今のところ空論の域を出ない。北朝鮮が体制崩壊するなどして混乱すれば、国境地帯の安定化を名目に、中国は軍事占領することになるはずである。
このように、北朝鮮問題の本質は、結局、中国問題ということになる。中国が北朝鮮への強い影響力を持っているので、日米韓が中国による北朝鮮への非核化等の働きかけを促すのは自然ではある。ただし、中朝の戦略的結びつきの根底が米国と同盟国への牽制である以上、働きかけは、中国への警告ないし圧力の形でなされなければならない。その前提として、日米韓の連携強化が必須となる。なお、北朝鮮が混乱した際に、いかにして核兵器やその関連技術が拡散しないようにするかは、北朝鮮を巡って、中国との間で非対立的に話し合える数少ない分野であり、この対話は進めていくべきであろう。
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