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2011-12-30 00:00
中国の北朝鮮への軍事介入も想定しておくべし
松井 啓
元駐カザフスタン大使
金正日総書記の突然死により北朝鮮情勢の不安定化が懸念されている現時点で、北朝鮮の「価値」について整理しておく。中国にとって朝鮮半島は地政学的に死活的に重要であり、朝鮮戦争の際に、国連軍(実質的には米韓連合軍)が北朝鮮の北部・中国国境まで迫った際には大量の「義勇軍」を送り北朝鮮を支え、国連軍を南に押し返し結局38度線の南北分断で落ち着いた。以降中国は北朝鮮に対しては「生かさず殺さず」政策を取ってここに自主独立の国、あるいは中国の利益に沿わない第三国の影響を受ける国が樹立されることを阻止して、北朝鮮を実質的な植民地、又は緩衝地帯として利用してきている。体制維持の経済的コストは軍事戦略的観点からはとるにたらないものである。
従って、北朝鮮の体制が民主的のものとなるのか、市場経済を目指すものなるのか、人権を無視した非人道的な独裁政策を取るものになるのか、一般市民が更に飢餓に苦しむことになるのかは、中国の北朝鮮支援の判断基準としては重要ではない。
今のところ中国は親子孫三代に渡る軍事独裁政権を引き続き支援することとしているが、金正恩体制が中国の「国益」に反する自主独立路線をとる、あるいは「北朝鮮の春」が起こると判断する場合には、内政干渉や軍事介入に出ることもありえよう。その先例はある。ソ連は1968年にチェコが自由化を求めた「プラハの春」をワルシャワ条約軍(実質的にはソ連軍)の戦車を侵攻させてこれを圧殺し、1979年にはアフガニスタンにソ連軍を侵攻させ親ソ傀儡政権を樹立させた。ソ連はいずれの場合も現地政権からの「要請」に応じたものと理由づけ、この行動を制限主権論(ブレジュネフ・ドクトリン)に基づくものとして正当化した。ロシアは2008年グルジアのアブハジアと南オセチアからの要請として両地に軍事進攻し親露政権の国をグルジアから独立させ、これらを承認した。ロシアは北朝鮮と国境を接しており、同地を緩衝地帯として維持したいであろうし、ここに米国の影響が強くなることは避けたいであろう。韓国は北朝鮮の突然の崩壊は望むところではないので、当面は現状維持が望ましいであろう。米国にとっては、この朝鮮半島は自由と民主主義のため戦った地であり、引き続き非核化、核非拡散を目指しており、アジア地域全体の安定のためにも、この地域から手を引くことはあり得ないであろう。
他方、日本の歴史を振り返る迄もなく、朝鮮半島は地政学的に見て日本の国家戦力上最重要地域である。日本にとって朝鮮半島が南北分断されているのが望ましいのか、軍事独裁体制のままでも安定していれば良いのか、将来的には統一へ持っていくのか(いつ如何なる体制)について国内的合意を形成して、その方向へ関係国を誘導していく一方、当面は不測の事態への対応振りを準備しておく必要があろう。まずやるべきことは、韓国と充分に意志の疎通を図り、次に米国とも連携して、核兵器開発、ミサイル開発、拉致問題に関しては北朝鮮の挑発行為や脅迫には動じないという3国間の確固たる立場を北朝鮮及び中国に対して充分に認識させることである。次に、北朝鮮が強硬手段に出て第二次朝鮮戦争のような事態になる場合に備え、特に3万人に近い在韓日本人の退避のために日米韓3軍が足並みを揃えて機動的迅速に行動が取れるよう準備をしておくことである。
更に、北朝鮮が冒険に走る最悪の場合を想定し、皇居、立法府、行政府、司法府が集中している千代田区にミサイルを撃ち込まれても日本全体が機能麻痺に陥らないよう対応を策定しておくべきである。また、地域住民と警察、消防、自衛隊との連携(民間防衛)も協議しておくべきであろう。なお、在日米軍基地問題の迅速な解決は、単に日米間の問題ではなく、東アジア・太平洋地域全体の安全保障にかかわる問題であるので、大局的見地から早急に解決すべきであり、他方、拉致問題は日本を除けば6者協議参加者のいずれにとっても優先度は低いので、日本支持のリップサービスはあるものの、最終的には二者間で解決する気概を持つべきであろう。
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