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2012-01-10 00:00
欧州版QE2で最悪の危機は去った
藤井 厳喜
ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役
欧州中央銀行(ECB)は、2011年12月21日、4890億ユーロの買いオペレーションを行ない、域内の銀行に大量の現金を供給した。当日の為替レートでは、日本円にして約50兆円の資金が金融機関に供給されたのである。 これは、ユーロ圏の民間銀行が2012年に必要としている支払いの約3分の2に相当すると言われている。この謂わば「ヨーロッパ版QE2(量的緩和第2弾)」によって、銀行の連鎖倒産という最悪の事態は避けることが出来た。これをQE2と呼ぶのは、ECBが2009年6月に、4420億ユーロの銀行への資金供給を行なったが、これを「QE1」と呼んでいるからである。QE1の期間は、1年間に限定されており、銀行は既にその返済を全額終わっている。この為、ECBは、過去のしがらみから自由にQE2を断行することが出来た。市場に大量のユーロが供給されるので、当然、ユーロ安・ドル高・円高のトレンドが進行する事になる。最悪の事態が避けられはしたものの、ヨーロッパの実体経済が冷え込むことは避けられない。財政規律実現の為に、支出削減と増税が行なわれるからで、おそらく数年間はヨーロッパ経済は冷え込むであろう。
一方、ヨーロッパ各国の消化についても明るい見通しが生まれてきた。ECBは、銀行に対して、期間3年と限定はしているが、必要なだけ無制限の資金供給を行なうと発表している。また、政策金利を1.25%から1.00%に下げたばかりではなく、預金準備率を2%から1%へ引き下げている。銀行は、ECBから大量の資金供給を受け、その資金で政府発行の国債を買うことが出来る。ドラギECB総裁自身、民間銀行が国債を買うことの是非を問われた際に、「国債の購入は、本来の目的ではないが、それを禁止することは出来ない。潤沢な資金は、中小企業への貸し出しに向けてほしい」と述べている。 恐らく、本音はその逆で、大量の資金供給によって、民間金融機関が各国の国債を買い支える事をECBは期待しているのであろう。つまり、ECBは直接、各国の国債をこれ以上は購入しないと冷たく突き放した形になっている。
ところが、民間銀行にECBは大量の資金を供給し、この資金で銀行が国債を買う事は黙認しているのである。これは単純に言えば「迂回融資」と言ってもよい。ECBが民間銀行を利用して、各国の国債を買い支えていると言ってもよい。しかも、イタリアやスペインなどに限って言えば、民間銀行がECBから借りる資金の金利は年率1%であり、国債の金利は年4から5%である。つまり、民間銀行はこの金利差で十分に儲けることが出来るのである。 これによって銀行の経営を改善することが可能になる。ドラギ総裁は、かのマキャベリの末裔だそうであるが、本音と建前を巧みに使い分けている。 ダブル・スタンダードを巧みに操っているともいえる。 何故、こんなことをするかと言えば、イタリアやスペインのような国の財政再建を促す為に、国民に心理的圧迫を加える必要があるからだ。ECBが国債の直接購入をしないということで、イタリア国民、スペイン国民等にショックを与え、逃げ道を封じたうえで、コンセンサスを創りだしてゆこうという政治的術策である。ヨーロッパ流のショック・ドクトリンと言ってもよいかもしれない。
一方、裏では、民間金融機関に潤沢な資金を提供し、最悪の事態を避ける手回しは怠りがない。しかも、その資金で国債を買い支える事もできる仕組みになっている。最も、財政再建が強行されるので、借換債はともかくとして、各国が新規に発行する国債の額は著しく減少せざるを得ない。そこで、ECBが供給する資金に余裕ができるはずであり、それは民間企業への貸しはがし防止に利用されるという筋書きである。最悪の事態である銀行の連鎖倒産は避けられたものの、ヨーロッパの実体経済が冷え込むのはこれからであり、ユーロ高という要因もあり、日本の対ヨーロッパ輸出は激減せざるを得ないだろう。
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