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2012-01-11 00:00
「天下国家」が泣く小沢被告人質問
杉浦 正章
政治評論家
どうも民主党元代表・小沢一郎は「国家」という言葉がお好きなようだ。初公判では検察を「国家権力の乱用」と決めつけたかと思ったら、1月10日の被告人質問では「私の関心は天下国家の話で、それに全力で集中している。それ以外はすべて秘書に任せている」と宣った。政治資金など秘書に任せっぱなしで、タッチしていないと言いたいのだ。そして今度は「国家」に「天下」をつけて“格”を一段と上げた。古墳時代に倭国王は「治天下大王」と自らを称していたと言われるが、小沢も自らをそう称したらいい。野党は証人喚問して、現代版「治天下大王」の御託宣を聞いたら良い。いやもう、多数決ででも参院で証人喚問を実現すべき段階ではないか。あまりに不自然な発言を放置しては、法治国家ならぬ放置国家となりかねない。
小沢がその発言通りに、果たして天下国家に全力集中しているかどうかだが、被告人質問でのやりとりを聞く限り、そうでもない。むしろ裁判対策に余念がないと言ってよい。基本的な法廷戦術は「秘書が、秘書が」という、あまたの政治家が秘書のせいにして疑惑を乗り越えてきた裁判手法をとっている。それも巧妙だ。まず大型ダム工事をめぐるゼネコンからの裏金疑惑となっている4億円の出所について、「相続財産など、手元にある金を用立てた」と説明。両親から相続した東京・湯島の自宅を売却して現在の自宅を購入した際の残金、相続した現金、著書の印税、40数年間の議員報酬などを挙げた。しかし、これらはいずれも確認のしようがない事例ばかりだ。これまでの発言の「政治資金」や「銀行融資」では馬脚を現す公算が強いが、「個人の資産」では、あいまいすぎて確認のしようがない。まさに「天下国家に集中」していてはできない用意周到な発言だ。
加えて「天下国家」発言と明らかに矛盾する証言もしている。それは銀行からの融資のサインについて、「秘書からサインを求められたときに、現金を担保に融資を受けるのかな、と頭の片隅にあった」という点だ。4億円もの額である。実際には頭の中央にあったに違いないが、片隅にあったというだけでも、天下国家集中論の“まやかし性”が垣間見えるのである。そもそもいくら小沢の政治資金が潤沢でも、「政治資金収支報告書を提出する前に内容を確認したことは一度もない」などという発言が、政治団体代表として不自然きわまりないものであることは明白だ。練りに練った法廷戦術であろうが、ほころびは見えるのだ。全部を秘書のせいにして監督責任はどうなる。政治的には当然これが求められる。野党が証人喚問を求め、政治的、道義的責任を追及することで一致したのは当然だ。11日の被告人質問ではさらに核心部分に迫るだろう。「国家権力の乱用」発言にせよ、「天下国家に集中」論にせよ、その根底には小沢の飽くなき復権への野望がみられる。4月の判決で無罪となれば一挙に復権して、9月の民主党代表選に臨む構えなのだろう。実現性はともかくとして、その構えがなければチルドレンを引っ張ってゆけない。
しかし、一部議員らの離党を食い止められなかったこと自体が物語るように、小沢の力の低下は覆うべくもなくなってきた。菅直人との代表選で国会議員票の半数に近い200票を獲得した力など、とっくに失せているのだ。有罪か無罪かの判断は、元秘書の石川知裕が報告書の虚偽記載について、「小沢被告の報告と了承を得た」と述べている供述調書が証拠採用されるかどうかにかかってきたようだ。もし有罪となれば、さらなるチルドレンの離反、総選挙での小沢グループの激減が目に見えている。また無罪でも、秘書3人の有罪判決が重くのしかかっているし、控訴も行われるだろう。小沢はもがいても絶対外れることのない「疑惑のトラバサミ」にはまっているのだ。
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