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2012-01-16 00:00
防衛費10年前の水準に回復を
鍋嶋 敬三
評論家
米国が1月5日発表した新国防戦略は国防予算の大幅削減のため、戦略態勢の再調整をしつつ、重点をアジア太平洋に移すという「歴史的転換」(パネッタ国防長官)を目指すものであり、特に中国とイランを意識した内容である。オバマ大統領は10年間で4870億ドルの国防費削減に当たっても「アジア太平洋を犠牲にしない」と保証する一方、同盟国と友好国の能力の増大で「負担分担の新たな機会が生じる」ことを明言した。米国一国で世界の安全保障をまかなえる力がなくなった現在、同盟関係の強化を軸に役割・任務の負担を求める強い姿勢を示したものだ。中国の軍事力増強に伴う脅威の増大、ロシアの軍事力の強化、現実の脅威となっている北朝鮮の核・ミサイル開発に直面する日本は減少の一途をたどる防衛費を10年前の水準に回復させるべきである。それが日本自身が領土・領海、経済水域を護る強い決意を対外的にも示し、また米国の求める同盟強化にこたえる道である。
日本の防衛費(当初予算)は平成14年度(4兆9395億円)から同23年度(4兆6625億円)まで一貫して減り続け、10年間で5.6%減少した。一般会計予算に占める割合も平成18年度の6%から同23年度は5%に下がった。主要国の1人当たり国防費(2009年度、ドル換算でOECD公表の購買力平価で比較)は米国2023ドル(対GDP比4.5%)、英国1031ドル(2.8%)、フランス684ドル(2.0%)、ドイツ470ドル(1.3%)に対して日本は321ドル(0.9%)である(以上、平成23度版防衛白書)。欧州はソ連の崩壊で最大の脅威が去った後も多額の国防費を国民が負担しているが、日本は「対GDP比1%」の壁が立ちふさがってドイツ以下にとどまっている。民主党政権は2011年12月、「基盤的防衛力構想」を改め、即応性や機動性を高めた「動的防衛力」を構築する新たな防衛計画大綱を策定、日米同盟の深化・発展、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化を重視した。東シナ海に接する南西諸島への早急な自衛隊の配備など機敏な防衛体制の構築が必要である。
米国の新戦略の第一の課題は「アジア太平洋の安全保障と繁栄」(オバマ大統領)であり、同盟とパートナーシップの強化を通じてそれを確保しようとする。本文8ページの短い新戦略文書の中で、同盟国や友好国との連携や協力について少なくとも10回言及しているのが特徴である。同盟国としての日本、韓国、オーストラリア、友好国としてフィリピン、ベトナム、インドが協力強化の対象としてある。新戦略は米国の経済的、安全保障上の死活的利益が「西太平洋から東アジア、インド洋そして南アジアに至る弧(arc)に密接につながっている」(パネッタ長官)という認識のもとに、米軍兵力配置の再調整を行うものだ。
米軍の主要任務の中でも「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」への対応が大きな課題である。中国、イランを名指しして「米国の戦力投射能力を阻止する非対称的な手段の追求を続けている」と批判し、自由な作戦能力を確保するのに必要な投資を続ける決意を示した。イランがホルムズ海峡の封鎖を公言して米欧との緊張が一気に高まり、中国も南シナ海、東シナ海での制海権、制空権を確保しようと狙い、日米、アジア諸国の懸念を強めている。オバマ大統領は米海軍の空母11隻体制を10隻に減らすことに個人的に反対したと米紙は伝えた。中国に対する確固たる意思表示だ。米海軍制服トップのグリナート作戦部長が1月10日、西太平洋50隻、中東30隻体制の維持を表明したのも大統領の決意を踏まえたものだろう。
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