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2012-01-25 00:00
ますます高まる「民主国家台湾」の戦略的重要性
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
1月14日に行われた台湾の総統選では、周知の通り国民党の馬英九総統が再選された。馬英九党政権が継続することは必ずしも悪い話ではない。ただ、その理由は馬英九政権の対中政策が両国の経済連携強化を目指すことを主眼とし、中国を刺激することが少なく台中関係が緊張しないからということではない。逆説的だが、対中宥和的とみなされる馬英九政権であっても、台湾が中国によって政治的・経済的に取り込まれることはないということが明確になる点に意義がある。政治的・経済的に取り込めないとなると、あとは軍事的手段によるしかない。中国が台湾を併合しようとすれば必然的に軍事的衝突に繋がるということが明確になるのは、戦略を考える上で曖昧さが小さくなることに他ならない。経済関係というものは、最終的に国家の帰趨が問題となる場合に決定的な要素となることはまずあり得ない。そもそも、互いに利益があるから経済関係が成り立つのであって、台中経済協力枠組み協定(ECFA)を結んだから台湾が中国に取り込まれるというのは短絡的である。
台湾人がそのようには考えていないのは、民進党の対立候補である蔡英文氏が台中間の経済関係強化を否定できなかった点から明確である。馬英九氏は選挙前、昨年11月ごろに両国の平和協定を視野に入れた政治的対話の開始を示唆したところ支持率が急落し、撤回に追い込まれた。中国との政治的対話に踏み込むことを台湾人民の民意は許さないということである。細かいことを言えば、本来、平和協定というものは国家間において結ばれるものであるからむしろ、これを議題とすることは台中が別の国であることをより明らかにしてくれるはずだが、国民党政権は「中国は一つだが、それが中華人民共和国であるか中華民国であるかは、両岸がそれぞれの解釈を唱える」という「92年合意」があったとしており、この場合、叛徒と正統政府の間の平和協定ということになってしまう。それは当然、台中統一という話にならざるを得ず、台湾人民の「本能的」ともいえる拒否反応は極めて適切であった。そして、その民意が通ったということであるから台湾の民主主義はいよいよ成熟してきたといえる。
もとより、台湾は地政学的に極めて重要であるが、それに加えて自由・人権・民主主義といった価値観の共有がより明らかになれば、台湾を支援する大義名分が強くなる。台湾人民のアイデンティティは、素朴なナショナリズムである「台湾人意識」から、「民主国家台湾の人民」へと発展している。政策理念のレベルでも、台湾は民主国家ということを前面に打ち出すようになってきている。例えば、2008年から2010年まで台湾の国家安全会議秘書長(事務総長)を務めた国民党の蘇起氏は、総統選の直前に当たる1月12日にニューヨークタイムズ紙に寄稿して、台湾は民主国家であり、中国の将来の民主化の手本となる存在であり、台湾は南シナ海問題などといった国際問題でも責任ある役割を果たすべきである、と主張している。台湾自身がこうしたことを明言することになったのは極めて重要である。
台湾が民主国家として自己主張を強めることは、台湾が日米などにとって地政学的に重要という受動的な立場から、能動的なプレイヤーになることを意味する。当然、これは大いに歓迎すべきことである。そして、これは台湾の戦略的重要性がますます高まるということに他ならない。我が国は米国と連携して、台湾を国際的に孤立させないようにしなければならない。もちろん、さしあたって我が国が直接軍事的な援助を供与するということは想定しがたい。まずは、早期に日台FTA交渉を開始し、実現を目指すべきである。また、台湾は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への関心を示しているので、情報を出来る限り提供してはどうか。さらに、台湾の国際機関へのオブザーバー参加を積極的に支持すべきである。軍事的な面に関しては、我が国の軍事力強化は間接的に台湾を助けることにも繋がる。
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