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2012-01-31 00:00
東南アジアへ米軍展開急ピッチ
鍋嶋 敬三
評論家
東南アジアへの米国の軍事的プレゼンス(存在)の拡大が急ピッチで進んでいる。1月初め発表の新国防戦略で示されたアジア太平洋地域に重点を移す方針が早くも実行に移されつつある。フィリピンのデルロサリオ外相は1月27日、より強力な米軍の存在を受け入れることを言明、合同軍事訓練や輪番制で配置される米軍を増強する方針を示した。名指しはしていないが、南シナ海で領有権紛争の相手である中国を睨んだ動きであることは明らかである。ウィラード米太平洋軍司令官は同日、米国がアジア太平洋に新たな軍事基地を作るつもりは全くないと言明した。国防費の大幅削減に向かって走り出したオバマ政権にとっては、フィリピンに恒久基地を作らずに安価にその存在を拡大できるメリットは大きい。
米比間には1951年の相互防衛条約がある。しかし、民族主義の高まりでフィリピン上院が1991年に米軍基地の存在を拒否、ベトナム戦争で最大の軍事拠点となったスビック海軍基地とクラーク空軍基地の完全撤退を余儀なくされた。シンガポールのストレーツ・タイムズ紙はフィリピンが20年前に米軍を追い出したことが地域の力の空白を招き、不安定を助長する懸念があったと指摘し、東南アジアでの米軍の新たなプレゼンスは増大する中国の影響力と均衡をとるためのものだと肯定的に評価した。同国のリー・シェンロン首相は米CNNとのインタビューで米国が「(アジア太平洋)地域に強い関心を払い続けることは良いことだ」と明快な発言をしている。
米比両国は3月に外務・防衛閣僚の会議を開く予定で、南シナ海の防衛を焦点に比側は訓練のほか、F16戦闘機や最新鋭の沿岸域戦闘艦(Littoral Combat Ship=LCS)の配備などを求める見通しと外電は伝えた。シンガポールは2011年にLCSの前進配備を米国に要請している(ウィラード司令官)。米海軍省の資料によれば、LCSは高速で機動性に優れ、機雷、高速水上艦、そして低音ディーゼル潜水艦など非対称的な「接近阻止」の脅威に勝つために設計され、既に2番艦が就役した。3000トンだが40ノット以上の高速で作戦が可能、電子兵器の塊で2011年には無人偵察機の発進と回収に成功した。2010年から2015年までに10隻を建造する計画で、空母を中心とする「大艦巨砲主義」では21世紀の脅威に機動的に対応できないとの判断があると思われる。
米国は、フィリピンと南シナ海を挟んで向き合うかつての仇敵ベトナムと防衛協定を結び、タイやオーストラリア(最大2500人の海兵隊を駐留の計画)とも軍事協力を強化している。戦略的意図を明示しないまま軍事的拡大を続ける中国に対して神経をとがらす米国は、「航行の自由の原則」を掲げて北は日本、韓国からグアム島、東南アジア、さらにインド洋から中東に至る海洋の安全保障を強化する戦略を進めている。東南アジアはいまやその鎖の中央に位置する戦略的地域として脚光を浴びることになった。中国メディアはフィリピンに対する「制裁」までちらつかせている。中国を含め関係国すべての重要な海上交通路(シーレーン)に当たるのが東シナ海や南シナ海である。中国の身勝手な領土・領海権の主張や攻撃的な行動が各国の警戒心と地域全体の緊張を高め、それが米国の戦略転換とこれに呼応する東南アジアの動きにつながったことを忘れているかのようである。
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