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2012-02-09 00:00
普天間固定化で“日米暗黙の了解”の構図
杉浦 正章
政治評論家
すべては「普天間固定化の暗黙の了解」がなければ進展しなかった話のはずだ。丹念に経緯を追い情報を分析すれば、普天間移設と海兵隊移転をパッケージとする日米ロードマップが崩壊した過程が見えてくる。首相・野田佳彦の全面否定にもかかわらず、米政府や議会筋の情報からも普天間固定化が現実問題となったことが分かるのだ。野党側は日米秘密交渉の根源部分を2月14日からの予算委集中審議で追及することになる。舞い上がった首相・鳩山由紀夫の発言がすべての発端だ。「最低でも県外」が、自公政権が積み上げてきた普天間移設をガラガラと根底からぶちこわしたのだ。ガラス細工であったが故に、8日の普天間移設と海兵隊移転の切り離し発表は、「補修は不可能」という方向を証明したものに他ならない。鳩山発言は2010年の普天間移設の日米再合意以降も祟(たた)り続けたのだ。沖縄現地の反対運動に火が付き、にっちもさっちもいかなくなったのである。
こうした中でしびれを切らした米議会は、昨年12月12日海兵隊グアム移転の予算の全額削除で合意、議会有力者の間では普天間移設を「断念せざるを得ない」との見方が強まった。米軍嘉手納基地への統合の検討を含めた現行計画の見直しを政府に求める動きも生じた。辺野古を代替施設にすることは不可能視されるに至ったのだ。これが落ち目のオバマ政権への圧力となって陰に陽に作用し続けた。一方、日本側も膠着状態打開の道が見当たらなかったが、沖縄側は知事・仲井間弘多が外相・玄葉光一郎に非公式に「移設・移転の分離が出来ないか」と打診。玄葉は当初は断ったが、次第に分離論へと傾いて、米側に打診した。しかし米側は分離に難色を示し、日米双方が問題を抱えたまま、降着状態に陥った。動きが出始めたきっかけは、昨年11月17日にオーストラリアの議会で行ったオバマ演説だ。オバマは「アジア太平洋が最優先」と位置づけ、世界戦略の軸足を中国の台頭著しいアジア太平洋地域に移す宣言をしたのだ。この戦略上の大転換は、来週13日の大統領の予算教書発表で定着するが、そのためには日米間ののどに刺さった骨を除去しなければならない。海兵隊移転の早期実現が不可欠になったのだ。
大統領演説を受けて国務・国防両省は、かねてから玄葉が打診していた「移設・移転の切り離し」に前向きに応ずるようになった。おそらく12月19日の玄葉・クリントン会談も切り離しが最大のテーマとして確認されたことが予想される。この切り離しの大方針を受けて、審議官クラスの秘密実務者会議で13日の予算教書をデッドラインとして協議が進められ、8日の発表につながったのだ。このような経過から推測する限り、「普天間の固定化」は話し合いにあたって暗黙の大前提になっていたことが分かる。しかし日本側は鳩山発言で壊した問題を日米再合意で修正したのであり、さらに固定化となれば、二転三転を印象付け、とても野田政権は持たない。野田としては「普天間移設死守」を表明し続けなければならないのだ。こうして発表は、「切り離しだが、普天間固定化はしない」となったものだが、米側は日本の政治事情など考慮しないから、その点気安く情報を漏洩する。共同通信によると、米政府高官が1月末「米軍普天間飛行場移設問題の停滞を直ちに打開するのは困難で、普天間を当面現状維持するしかない」との考えを日本側に伝達し、「固定化はやむを得ない」との認識を示していたことが分かったという。また別の情報によると国防総省が米議会との水面下の交渉で、普天間を辺野古に移設するための代替施設建設を断念する意向を伝達していたことが分かったという。
状況証拠的にも米側が普天間飛行場の再整備に乗りだし、日本側に費用の分担を求めていることが注目される。民主党政権の必死のカバーアップにもかかわらず、米側からはボロボロ交渉の実態が漏れ始めているのだ。自公両党にしてみれば鳩山に壊された普天間移設のロードマップを、民主党政権が修復したふりをして、また壊したことになるわけだから、怒り心頭に発するのも無理はない。副総裁・大島理森が「普天間基地の移設と海兵隊のグアム移転を分離することは、これまでの日米合意を根底から覆すもので、普天間基地の固定化につながるゆゆしき事態に陥っている」と述べているとおりだ。今後消費増税問題に勝るとも劣らない問題として、国会論議の焦点となる。これを乗り切るにはまず最大のアキレス腱である防衛相・田中直紀を、追い詰められてからでなく、一刻も早く更迭することから始めなければ、事態はぐちゃぐちゃになる。この際田中は自発的に「任にあらず」と辞任するのが政治家としての立派な出処進退なのだが、どうか。今後米側から新事実が次々に出されることも予想され、野田政権は第二波第三波に見舞われていくだろう。
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