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2012-02-09 00:00
米軍再編見直しにおける普天間問題切り離しは重要な進展
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
日米両政府は、2月8日、在日米軍再編ロードマップ(2006年合意)の見直しに関する基本方針を、共同プレス発表という形で発表した。それによれば、米海兵隊普天間飛行場の代替施設を辺野古に建設することを確認しつつ、海兵隊のグアム移転と米軍嘉手納基地以南の土地の返還を普天間移設の進展と切り離し、グアム移転を先行させるとのことである。そして、最終的に沖縄に残留する海兵隊のプレゼンスは再編のロードマップに沿ったもの、すなわち、8,000人規模の移転を実施し、10,000人程度が残留するとしている。普天間移設と海兵隊のグアム移転が一体である必然性はなく、適切な方向に一歩踏み出したものと、歓迎したい。今回の見直しは、日米双方にとって、建設的な内容である。
まず、米国にとっては、費用の圧縮が見込まれる。さらに重要なことは、アジア太平洋戦略が前進するということである。米国は、米軍のアジア太平洋地域への配備の原則として、「地理的により分散し、運用面でより抗堪性があり、かつ、政治的により持続可能な米軍の態勢を地域において達成する」という三つを掲げている。これらの原則は、中国の対艦ミサイル等の能力向上を恐れて一歩後退する、という趣旨でなければ、米軍の柔軟な運用に資するものである。 ウィラード米太平洋軍司令官は、7日に行われた読売新聞とのインタビューで、沖縄に展開している第3海兵遠征軍(ⅢMEF)の意義について、ⅢMEFは、アジア太平洋地域における緊急事態や自然災害に際して、真っ先に駆けつけられる唯一の米軍であると述べ、海兵隊は、陸海空の任務を自己完結して行うので、航空機だけを歩兵部隊や補給部隊と別の場所に置くことは出来ず、普天間飛行場を沖縄以外に置くことはできない、という趣旨の発言をしている。このことからも、海兵隊そのものを沖縄から引く意図は全くないことが分かる。「沖縄は中国に近過ぎる」という論議も一部で聞かれたが、誤った論議である。
プレス発表では、移転する8,000人をどこに持っていくのか、その内訳は具体的にされてはいないが、グアムに4,700人程度、そのほかハワイに1,000人程度、米本土に800人程度、それ以外は、オーストラリア、フィリピンなどが取り沙汰されている。グアム移転分以外は、ローテーション方式となる見込みである。これは、「分散配置」の原則にのっとったものである。ここで、注目したいのは、フィリピンである。フィリピンは、スービック海軍基地とクラーク空軍基地を、1991年に米国から返還させ、米比同盟は空洞化してしまった。その結果、1995年に中国によってスプラトリー諸島のミスチーフ礁を奪われる憂き目に遭っている。今年1月になって、フィリピンのアキノ大統領は、米比防衛協力の推進を打ち出した。これは、フィリピンが南シナ海の東の砦となることを意味する。沖縄から出ていく海兵隊のローテーション先として、フィリピンが取り沙汰されているのはそのためであり、そのようになることを期待したい。そして、フィリピンの重要性が高まることは、フィリピン防衛あるいは支援の拠点として沖縄の価値も高まることに他ならない。この意味を理解すべきである。
我が国の国内政治上重要な、沖縄の負担軽減という文脈でも、今回の見直しは大いに前進である。「普天間の固定化が懸念される」と決まり文句のように言うが、嘉手納基地以南の土地の返還を普天間移設の進展と切り離すのだから、2006年の再編ロードマップの通り、キャンプ瑞慶覧、牧港補給地区などの県南部の5施設が返還されることになる。このことに関する沖縄の反応は、報道等を見る限り、比較的好意的であるように見える。普天間移設問題が切り離されたことにより、普天間問題は事実上国内問題となった。そして、米軍再編見直しが建設的な方向に動き出したのであるから、中身のある戦略論議をする機が熟したと言える。我が国は、これを通じて、アジア太平洋の安定化に能動的に対応するべきである。
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