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2012-02-24 00:00
(連載)ロシア、中国の拒否権発動と今後のシリア情勢(1)
水口 章
敬愛大学国際学部教授
ロシアと中国は2月4日、国連安保理事会で拒否権を発動し、対シリア決議案を廃案とした(賛成13、反対2)。この国益を中心に据えたロシアと中国の対外政策は、まさに先進国から新興国へとパワーシフトが起きている今日の国際社会を象徴する出来事だと言える。そこで、この両国の対外政策から分析できることを以下で述べてみたい。
今日、多くの先進国では対外政策をデザインする際、国際協調や人間の尊厳と言った課題が重視される。その背景として、相互依存が高まっている国際社会における「グローバル・リスク」の連鎖に対応することは1カ国だけでは難しいことや、「人権」「自由」「公平性」など主観的な認識領域であった価値が、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が普及する中で、広く普遍的な価値だと認識されはじめていることがある。これに対し、中国とロシアは、国連憲章2条4項の主権国家への不干渉規則にもとづき、人権という価値は国家利益よりも優先されるものではないとの考えを持っている。したがって、この両国では、自由や公平、人権という価値に対し、多様な観点で政治指導者が制約をかけることがある。つまり、ロシアと中国は国際社会が「保護する責任」に基づき主権国家に内政干渉を行うことを否定することで、自国の人権問題などを理由に国際社会から内政干渉を受ける可能性を潰すとの意志を明確に示している。
ロシアのシリアにおける国益としては、(1)武器取引(5億5,000万ドルの航空機売却契約など)、(2)旧ソ連諸国以外の唯一の軍事基地(海軍)、(3)通信傍受施設の存在、(4)アラブ世界で唯一残された同盟国などが挙げられる。しかし、これらの国益を守るという理由だけでロシアが国際的批判の的となるような政策選択を行うとは考えにくい。また、リビアへの国際介入において、ロシアと中国が国益を失ったとの観点だけでは、シリアに対して大きな国益を持たない中国がロシアと共同歩調をとることの説明がつきにくい。両国が拒否権の行使という政策選択をした背景には、この両国で本年、政治指導者の交代が行われることがあると分析できる。
ロシアでは3月の大統領選挙を前に、反プーチンの大規模な市民抗議活動が見られている。プーチン首相も認めているように、決選投票になる可能性もあり、体制側と市民との対立はこれまで以上に厳しいものになりつつある。また、中国でも、今年10月の中国共産党党大会で習近平氏の総書記就任がスムーズに行われることがほぼ確実だが、首相人事や経済政策については、まだ調整段階にある。また、EUの経済危機による同国の経済成長の鈍化により、地方、少数民族、若者たち(ユース・バルジの存在)の社会不満(格差の拡大)が表面化するリスクも抱えている。(つづく)
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