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2012-03-05 00:00
金正恩体制初のリトマス試験
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮が寧辺でのウラン濃縮活動の一時停止、国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れなどで米国と合意した。合意には長距離弾道ミサイルの発射、核実験の停止も含まれる。米国は24万トンの食糧支援の実現に努力する。北京で2月23、24日に行われた米朝協議の成果で、金正日国防委員長の死去(2011年12月17日)以来、初の米朝関係の進展だが、6カ国協議の再開につながるかどうか予断を許さない。クリントン米国務長官は2月29日、下院歳出委員会で証言し「正しい方向への控えめな第一歩」と評価したものの、今後の展開については金正恩党中央軍事委員会副委員長ら「新指導部の行動で判断する」と慎重だ。北朝鮮は最高指導者の交代というまたとない機会を活かして「非核化」へ向けた真剣な努力を国際社会に示さなければならない。
合意をめぐって米朝間で解釈の相違が表面化する可能性もある。米政府高官は「非核化に向けて真剣な交渉の扉を開くもの」と評価する一方、IAEA査察の受け入れは非核化プロセスの核心になるだけに「非常な重要な部分だ」としており、難しい課題であるとの認識を示した。それが進展するかどうかはまさに「北朝鮮次第」(同高官)だからである。北朝鮮は6カ国協議の合意(2007年)で寧辺の核施設の無力化を完了し、すべての核計画の完全かつ正確な申告を行うことになっていたが、履行していない。米政府が1月31日公表した世界脅威報告書では核物質、技術、ノウハウを国外移転しないとの約束を再確認した2007年合意にもかかわらず、北朝鮮が再び核技術を輸出する可能性を警戒している。
北朝鮮外交は脅威を高めて見返りの代償を得る「瀬戸際政策」で相手を翻弄、米国はじめ当事国は煮え湯を飲まされてきた。強硬姿勢と柔軟さを使い分けて日米韓の連携を分断するのも常套手段だ。米朝協議は本来昨年12月18日に予定されていた。米高官によると、金正日氏死去発表(12月19日)の24時間後にはニューヨークのチャンネル(国連代表部)を通じて米朝が接触、米側は北朝鮮のアプローチを見て金正日体制からの継続性があるとのシグナルを受け取った。年明け早々、北朝鮮は米国が核問題と絡めて食糧支援を「政治化」していると批判を浴びせていたにもかかわらず、交渉に乗り出したのはなぜか。それだけ食糧事情が切迫し、4月の金日成生誕100周年を前に対米交渉での実績を示し、金正恩氏の指導力を誇示して権威を高める狙いがある。
金正恩体制は軍部の掌握など政権基盤を固めるのに時間を要するだろう。その間外交、軍事政策は金正日体制のアプローチを踏襲せざるを得ない。基本的な問題は6カ国協議の合意に戻り、完全非核化に向かうことができるかどうかである。米議会調査局のマーク・マニン氏は1月の報告で「北朝鮮の指導者が核兵器と長距離ミサイルの能力を完全に解体すると信じている北朝鮮ウォッチャーはほとんどいない。大量破壊兵器(WMD)の保有は体制生き残りに絶対必要になっている」と指摘している。今回の合意が国際社会の北朝鮮への不信感を払拭することにつながるのかは北朝鮮が真摯に米朝合意を履行するかどうかにかかっている。金正恩氏にとって最初のリトマス試験である。
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