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2012-03-05 00:00
プーチン首相の北方領土発言の真意を読み誤るな
袴田 茂樹
日本国際フォーラム副運営委員長・政策委員・青山学院大学教授
3月4日の大統領選挙でプーチン首相が当選した。その直前の3月1日に各国マスコミ人との記者会見で、プーチンは北方領土問題について自己の見解を少し立ち入って述べた。わが国のマスコミは、プーチンが柔道の「引き分け」という言葉を使って、妥協や譲歩の姿勢を示したとか、最終的な解決に向けての前向きの交渉に「始め」の指示を出したと報じた。その結果、プーチンが大統領になったら、北方領土問題も解決に向かって大きく前進するという期待が一気に盛り上がっている。残念ながらこれらの報道は、プーチンの発言を正確にフォローしないままで、断片的な情報をもとに間違った認識をまき散らしていると言わざるを得ない。プーチン首相の公式サイトに記者会見の発言は詳しく掲載されているが、これを読むと、プーチンの意図は日本での報道のニュアンスとは大きく異なる。
プーチンは、平和条約締結後に2島を引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言の有効性を認めた上で、「平和条約が意味することは、日本とソ連との間には、領土に関して(歯舞、色丹以外の)他の諸要求は存在しないということだ」と断言した。つまり、プーチンは国後、択捉の帰属問題に関する交渉はまったく認めていないということである。これは「4島の帰属問題を解決して、平和条約を締結する」と合意した東京宣言の拒否でもある。この後、日ソ共同宣言に関して、日本のマスコミが報じていない次のような重大な発言が続く。「そこ(共同宣言)には、2島が如何なる諸条件の下に引き渡されるのか、またその島がその後どちらの国の主権下に置かれるかについては、書かれていない」と。つまり、平和条約が締結されても「2島引き渡しは無条件でなされるのではない」と示唆しているのだ。もっと重大な指摘は、「2島引き渡し」後も、主権はロシアが保持する可能性を示唆していることだ。
「引き渡し」は「返還」ではない、というロシアの従来の主張の真意もここにある。換言すれば、歯舞、色丹の「開発の権利」のみを日本に引き渡すとも解釈できる。この場合、当然のことながら、周辺の排他的経済水域もロシアのものとされる。今回の記者会見について、わが国では、両国が譲歩して「2島+α」の解決をプーチンが示唆していると軽率に理解した者が多い。しかし、記者会見でのプーチン発言が示しているのは、2島返還さえも拒否する姿勢だ。プーチンに質問した朝日新聞が、そしてプーチンの公式サイトを読める他のメディアも、なぜプーチン発言のこの重大な部分を報道しないのか、理解に苦しむ。3月5日にロシア外務省の要人とプライベートに話す機会があったが、その要人も、日本のどのマスコミもこの部分に注目していないことに驚いていた。
望ましい解決例として、プーチンが中露間の国境問題解決の例を挙げたことが、日本では注目された。これを、中露で紛争地域の面積を折半した例と解釈する記事もあった。実際にはプーチンは、次のように述べている。「日露間で経済発展が進めば、妥協による解決が容易になる。・・・ご存じのように、私たちは中国との国境線問題の解決の交渉を40年も続けた。そして、両国関係の水準が、またその質が、今日の状況に到達して、我々は妥協による解決を見出したのだ。私は、日本との間でも、同様のことが進むことを強く望んでいる」と。ここで中露間の例を示してプーチンが述べているのは、従来の主張と同じく、まず経済関係など両国関係を発展させよ、ということだ。もちろん、面積折半論ではない。不正確な情報をバラ撒いている日本の報道関係者や、それを安易に信じる人たちの猛省を促したい。
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