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2012-03-17 00:00
崩壊寸前の米国のアフガニスタン政策
川上 高司
拓殖大学教授
3月11日にアフガニスタンのカンダハル地方のある村で、米兵が地元住民の民家を午前3時頃襲撃し、16人を殺害する事件が起こった。この事件では2歳の幼児を含むこども9人と女性3人(うち2人は妊婦)が含まれており、殺害後遺体を焼却したことからアフガニスタン市民の反感は沸騰している。もともと夜間襲撃作戦や空爆で市民のアメリカへの不満と怒りは煮えたぎっていた。そこへ米軍がコーランを焼いたことが市民の怒りに拍車をかけ米軍を狙った襲撃が連続して起こっていた。そのように相互不信と憎悪が高まっていた状況の中で起こった今回の事件によって、もはや米軍とアフガニスタン人との間の信頼関係は修復不能な段階に達してしまった。
それだけではない。この犠牲になった一家は、米軍基地の近くなら安全だろうとあえて基地の近くに住んでいた。その信頼を裏切られた反動で、遺族や村民らが反米親タリバンに傾く可能性は高い。それは2014年の撤退にも影響を与えかねないし、撤退までの期間がより危険になることをも意味する。1人の市民を殺害すると10人の敵を作ると言われているが、それに従えば160人の敵すなわちタリバンを増やしたことになる。
オバマ大統領は「この米兵の行為はアメリカの姿勢とは無関係」であり「厳正な調査を約束する」と、異例の速さでコメントを出したことからも今回の事件の衝撃の大きさがわかる。今回の事件はオバマ大統領が推進する少数精鋭部隊による「夜間襲撃作戦」と類似しているが、それが偶然の一致なのか、容疑者による模倣なのかは真相が究明されねばわからない。模倣であるとするならば、米軍にとってはきわめて深刻な問題を提示している。しかも米側は容疑者は一人としているが、市民の目撃証言では複数の米兵がいたという。複数による犯行ならばより深刻である。
さらにアメリカにとって悪いことに、アフガニスタンに影響力を持つパキスタンとの関係も最悪であり、今ではパキスタンに仲裁役を期待することもできない。タリバンはすでに報復を宣言した。つきつめていけば、昨年のオサマ・ビン・ラディン襲撃以降、パキスタンとの関係が悪化し夜間襲撃作戦の多用によるアフガニスタンとの関係も悪化、反米感情が高まるなどアフガニスタン政策は悪い方向へと向かっているように見える。この事件をどう収拾するのか。大統領選挙を控えてオバマ大統領の外交力が問われる。
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