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2012-03-28 00:00
消費税法案閣議決定確定で、小沢戦略の限界露呈
杉浦 正章
政治評論家
民主党の消費増税法案事前審査は、政調会長・前原誠司への一任“強行”で、3月30日の消費増税法案の閣議決定が確定した。これにより、消費税政局は国会の場に焦点が移行した。同法案をめぐる党内抗争は首相・野田佳彦が元代表・小沢一郎に対し第1ラウンドは勝利を占めた形となった。今後は法案採決時における決着を目指して、野田は対小沢と対野党の二正面作戦を強いられる方向となった。しかし、閣議決定阻止の造反が不発に終わったことから、小沢の強気一辺倒の戦略の“限界”が見え始めた。要するに、小沢の「脅し」が利かなかったということだ。閣議決定阻止に向けて小沢は、グループ所属の政務三役12人が一斉に辞任することも視野に入れて、強気の戦略を組んだ。小沢自身も法案に「修正しても反対」と表明、一切の妥協を拒否した。しかし、国家財政が破たんの危機にあることは小沢グループにも浸透しており、8回にわたる事前審査も回を重ねるごとに条件闘争の側面が生じてきた。
小沢の反対論を煎じ詰めれば、解散を先延ばしにして、自己勢力の温存を図るところにあり、「邪心」が当初から見え見えだったのだ。落選必至のチルドレンをけしかけても、事前審査では説得力が出ないのだ。こうした小沢の限界を見据えたのか、野田は法案閣議決定に向けて一切ぶれなかった。それどころか発言の勢いを増していった。「不退転の決意」が「政治生命を賭ける」となり、「51対49の党内世論でも頑張る」を経て、しまいには「命を賭ける」とまでエスカレートさせた。この間2月25日には自民党総裁・谷垣禎一との極秘会談で「話し合い解散」をほのめかし、小沢をけん制した。小沢は、このままいけばそれこそ「切られる」と恐怖を感じたに違いない。背景には小沢の側近であるはずの幹事長・輿石東が、反対へと動かなかったことが大きい。輿石は、一時は野田と反対派の調整に回ったほどであり、基本的に消費増税法案を政局の具とすることには慎重であった。小沢は27日の昼になって側近議員に「今回の議論は終わりだろう」と漏らし、早々と掲げたZ旗を降ろしている。
こうして小沢にとっては「修正でも反対」は貫けず、事実上前原のペースで事は運んだことになる。第1ラウンドで敗退したものの、グループは「法案採決時の反対で決着をつける」とすごんでいるが、これが可能だろうか。小沢の前に大きく立ちはだかるのは、野田サイドの自民党への大接近策だ。野田自身の極秘会談に加えて、副総理・岡田克也が自民党幹部との会談で大連立を持ちかけるなど、一連の接触が物語るものは「小沢孤立化」であろう。自民党内には元首相・森喜朗のように消費増税法案賛成論も根強い。森は27日「今、自民党が助け舟を出し、民主、自民の両方一体で立派なものをつくることが、国民に一番安心してもらえる」と発言している。そもそも自民党が参院選挙の公約としたのが10%への増税であり、反対する方が矛盾があるのだ。それでは小沢が今後どう出るかだが、消費増税法案への反対投票を軸にグループをまとめ、内閣不信任案か問責決議案が提出されれば、これに賛成することも視野に置いた戦略を描いているのだろう。
しかし、極秘会談が生んだ自民・民主の話し合いムードは、この小沢戦略を危うくするものである。国会に法案が提出されれば、審議の過程で妥協の動きも生じてくる。事前審査では執行部が仕掛けた再増税法案提出条項が取引材料になったように、こんどは自民党が反対している7万円の最低保障年金の断念が、消費税法案成立への取引材料になる公算が出てきている。終盤国会での与野党激突を“活用”する小沢戦略が成り立つかどうか疑問となってきたのだ。また4月26日に予定される政治資金規正法違反をめぐる裁判の行方も大きく小沢の動きを左右する。裁判に負ければ、小沢の再起は不能状態に陥るだろう。チルドレンの小沢離れが始まる。勝てば、党員資格停止処分も撤回され、公然と党内での主導権争いを展開するだろう。しかし、消費税法案に本当に反対投票をするかと言えば、自民党が賛成すれば小沢は孤立するだけだ。たとえ野党が反対して、法案否決となっても、野田は否決と同時に「破れかぶれ解散」に打って出る可能性が強い。これも小沢戦略の最も嫌うところである。したがって、消費税政局を狙う小沢の戦略はどうもおぼつかなくなってきたというのが実情だろう。
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