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2012-03-30 00:00
サプライズが多すぎる世銀総裁候補
川上 高司
拓殖大学教授
今年6月に退任するロバート・ゼーリック世界銀行総裁の後任をめぐって、オバマ政権周辺では憶測が飛び交っていた。有力候補と言われていたクリントン国務長官は総裁就任の要請を頑なに断り、スーザン・ライス国連大使も固辞していた。一方で、世銀総裁の座を狙っているローレンス・サマーズは名前ばかりが先行して、一体誰が擁立されるのか注目されていた。
伝統的に世銀総裁はアメリカから、IMF(国際通貨基金)専務理事はヨーロッパから出して世界でのアメリカとヨーロッパの影響力は維持されてきた。しかし世界は大きく変化し、アメリカは普通の国になりヨーロッパはユーロ危機でいつ経済がクラッシュするか綱渡りを続けている。中国やブラジルなどは、新興勢力として世界経済のみならず政治的にも影響力を強めつつあり、アメリカが独占してきた世銀総裁の地位について、他の国からも総裁を出すべきだと主張している。アメリカは引き続き自国から出すと主張して譲らないが、新興勢力の声を無視するにはあまりにも彼らの影響力が強まり、アメリカのパワーは低下している。
その声を受けてか、バランス感覚に長けたオバマ大統領が世銀総裁として選んだのは韓国系(アジア系というべきであろう)アメリカ人で、ダートマス大学学長のジム・ヨン・キム氏である。学問分野の出身で、しかもアジア系という異例の選出で新興国の批判を和らげようという狙いはもちろんあるが、あえてアジア系を選んだという点にアジアを意識したオバマ政権の方向性がここにも表れている。キム氏は韓国で生まれ5歳でアメリカアイオワ州に移住、父親は歯科医学の教授、母親は哲学の博士号を持つ学者一家で育った。英語、韓国語、スペイン語を話すことができ、バスケットボールが得意のアスリートでもある(オバマ大統領もバスケットボールを趣味にしている)。彼は行動派の公衆衛生学の医者でWHOの活動ではエイズ撲滅や多耐性結核菌の撲滅のために発展途上国を奔走したこともある。2009年にダートマス大学の学長に就任したときは、アイビー・リーグでは初のアジア系学長となった。ちなみに妻は小児科医でアフリカのこどもたちの健康救済プログラムに関与したこともある。
キム氏は世銀総裁としておそらくアジア諸国からは歓迎されるであろうし、もちろんヨーロッパ諸国も支持するだろう。だが、批判がおさまったわけではない。南アフリカなど新興国は候補者を擁立しているが、結果がどうであれ、無条件にアメリカ人が就任するよりは複数の候補の中から選出というプロセスを経るほうが多くの国が納得するだろう。選出の過程がより透明性をもつことで、ここにも民主化革命が及んだと見れば大いに歓迎すべきことだ。
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