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2012-04-16 00:00
問われる「戦略的忍耐」と関与のジレンマ
鍋嶋 敬三
評論家
北朝鮮が鳴り物入りで宣伝した「人工衛星」は4月13日、打ち上げに失敗した。国際社会が反対する中での長距離弾道ミサイルの発射強行は中国の北朝鮮に対する影響力の限界を露呈した。発射自体が直近では国連安全保障理事会の制裁決議(1874号)違反だが、新たな制裁決議は中国の反対で見込みが薄い。金正恩新体制が権威を高めるため3回目の核実験をする可能性が強まっている。日米韓による対北朝鮮政策の綿密な調整が必要である。米国のオバマ政権が韓国と歩調を合わせてきた「戦略的忍耐」は有効であるか、問われている。これは北朝鮮に核開発をやめさせるというよりも「拡散を封じ込める政策」(米議会調査局マニン氏)と見なされており、北朝鮮が核開発をやめることはないとの判断に立っている。6カ国協議や米朝交渉などを通じて関与(アメ)と圧力(ムチ)を使い分けながら北朝鮮の軟化を待つというアプローチだが、忍耐強く待つ間に北朝鮮の核、ミサイル開発が進んだのも事実だ。
オバマ政権は2月29日に北朝鮮との間で、長距離弾道ミサイルの発射と核実験の凍結などと引き換えに24万トンの食糧援助を合意したが、僅か1ヶ月半で見事に裏切られた。安保理の制裁決議で北朝鮮を経済的に締め付けるという「圧力政策」はそれなりに効果があった。しかし、核兵器やミサイルなどの大量破壊兵器(WMD)の保有や技術輸出を体制維持の不可欠な柱としている北朝鮮は制裁措置を逆手にとって援助を引き出すのが外交戦術の基本だ。北朝鮮の体制崩壊が自国の安全保障上の最大のリスクと考える中国が援助を増やして制裁を帳消しにしてしまう。「忍耐」の限界だからといって強硬策をとれば、北朝鮮による軍事的挑発や不測の衝突を招く危険があり、そこに「圧力」の限界もある。
「関与政策」は北朝鮮体制内部の穏健派の立場を有利に導き、WMD開発のテンポを遅らせるという期待に基づく。金正日体制末期の2011年に北朝鮮は微笑外交を展開したが、その背景は深刻な食糧不足など経済の窮状だ。オバマ政権は「圧力」より「関与」に傾斜して2月の米朝合意で食糧援助を約束した。今回のミサイル発射の費用は推定8億5000万㌦、北朝鮮2400万国民の80%の食糧1年分に相当するとされる(韓国、英米の報道)。オバマ政権はミサイル発射後も新たな制裁措置を求めず、北朝鮮に対して交渉の余地を残した姿勢も見せている。11月の大統領選挙で共和党候補としての指名が想定されるロムニー氏は「オバマ大統領が北朝鮮に融和策を取り食糧援助を約束したのは全くナイーブだ」とこき下ろした。再選を目指すオバマ大統領もこれ以上「関与」のアプローチを進めることは政治的に難しい状況に追い込まれた。
北朝鮮の体制矛盾も深まる可能性がある。朝鮮労働党と軍部を掌握し絶大な権力を振るった父親の金正日総書記と異なり、金正恩氏は党や軍の指導者としての肩書きはそろえたものの政治経験に乏しく集団指導体制に依拠する政権の基盤は確かではない。4月15日の金日成生誕100周年を前に米朝合意を反古にしてミサイル発射を強行したことは「金正日総書記の遺訓」といいながら党、軍部、外務省など指導部中枢の内部対立をうかがわせるのに十分だ。指導力不足から八方美人的に権力派閥の主張を入れた結果かもしれない。さらに指導部と飢餓にさいなまれる国民一般との溝も静かに、しかし確実に深まって行く可能性も否定できない。インターネット時代の技術革新は人々の予想を超えるほど早く、強権的政権といえども情報の伝達を草の根に至るまで完全に遮断することは不可能に近い。
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