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2006-10-13 00:00
インドとの原子力平和利用協力に踏み切り、軽水炉輸出を提言しよう
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
日本国際フォーラム第29政策提言「インドの躍進と日本の対応」に関する第1回政策委員会に出席し、討論に参加した。榊原英資氏らのタスクフォースが包括的な提言案をまとめていたが、唯一、原子力平和利用をめぐる米印合意についての分析が不十分で不正確だった。この米印合意は、昨年7月、ブッシュ米大統領がマンモハン・シン首相をワシントンに招いて締結したもので、北朝鮮の脱退、イランの秘密核開発などで空洞化しているとされる現行のNPT(核不拡散条約)体制をさらに揺るがす“大事件”だったのだ。
インドは、米ロ英仏中の5カ国を「核兵器国」と認定し、それ以外の国に核開発・保有を禁じるNPTは不平等条約であるとして、NPT体制を「核のアパルトヘイト」と呼んで非加盟を貫き、1974年には自力開発で核実験を実施、さらに1998年に重ねて実験をして核保有宣言をした。対抗上パキスタンも核開発、同時期に核実験して南アジアに核が拡散した。日米はじめ先進諸国は両国に経済制裁を課して対抗したが、ブッシュ政権は「テロとの戦い」を進める上でインド、パキスタンの支援を必要として制裁を解除、それどころかインドの核保有を容認して、原子力平和利用推進で協力を申し出たのだから、ことは穏やかではない。パキスタンは、A.Q.カーン博士が「核の闇市場」を構築して北朝鮮やイランに器材を密輸出していたことが発覚したため、協力の対象とはしなかったが、インドは自らをきびしく律して核不拡散政策を遵守してきたことをブッシュ政権は評価し、合意締結が実現したというわけだ。
米国としては、停滞する国内の原子力産業再建のためにインドの巨大市場に着目、あわせて中国牽制の一石二鳥を狙った政策転換だった。他方、インドも大規模・大量発電が可能な軽水炉と燃料の低濃縮ウランを欲していたので、米国の申し出はまさに“渡りに船”だった。しかしブッシュ政権の“英断”には、NPT体制堅持を主張する米議会の野党・民主党が猛反対、議会の承認が難航しており、審議は11月の中間選挙後まで持ち越されることになった。インド、パキスタンなどNPT体制外の諸国、ならびに体制内にあっても秘密開発を試みる国に対する核物質・関連器材・技術の提供を規制しようというNSG(原子力供給グループ)の「ロンドン・ガイドライン」にも抵触するので、インドを例外として規制から外す決定が必要になっている。
以上が米印合意の経緯だが、日本に与える影響は甚大である。日本はNPT体制の申し子のような“優等生”で、NPT非加盟国との原子力平和利用における協力はいっさい自粛しており、たとえばインド政府関係者が青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設見学を希望しても門前払いだ。この分野の日印交流はほとんど存在しない。NSGの会合でも日本はスウェーデン、中国とともにブッシュ政権の“英断”に賛成しなかった。しかし、中国以外の核保有国、英仏ロの3国は賛成し、シラク大統領は早速フランスの原子力業界の代表を率いて訪印、米国並みの原子力平和利用協定を締結し、協力を申し出ている。この調子だと、米印合意が議会で否決されても、他の先進諸国の対印協力はなしくずしに進み、日本だけが置いてきぼりを食う結果になるだろう。
インドはカナダ原産のCANDU型重水炉主体の原子力発電で、15基が稼動しているが、いずれも小規模原発で、年間発電量は280万キロワットだ。大型軽水炉主体の日本は55基で4800万キロワットだから、出力に雲泥の差がある。急増するエネルギー需要に対処するためインドは軽水炉建設を望んでおり、日本にはその技術があり、業界の期待も高まっている。本フォーラムとしては、インドに対する軽水炉輸出を提言すべきだ。IAEA(国際原子力機関)のセーフガード(保障措置)下におくことを条件にする限り、軍事転用のおそれはない。すでにインドは国内の22基のうち民生用原子炉14基をすべてIAEAの査察下におくことで米国と合意している。
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