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2012-05-02 00:00
「失われた3年」の付けを払う
鍋嶋 敬三
評論家
野田佳彦首相とオバマ米大統領との首脳会談(4月30日、ワシントン)でアジア太平洋の安定に「役割と責任を果たす」ため、同盟強化を再確認する共同声明を発表した。日本の首相の公式訪米は麻生太郎首相(自民党)以来3年ぶりで、共同声明は民主党政権として初めてという異例の結果になった。鳩山由紀夫首相は2009年9月の首脳会談で普天間問題の解決を約束しながら、自ら「県外移設」を公言して立ち往生、米国の信頼を失い日米同盟関係を暗転させた。次の菅直人首相も公式会談ができなかった。その間、アジア情勢は中国の軍事的脅威の増大、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展、ロシア極東軍事力の強化など厳しさを増してきたにもかかわらず、普天間問題で自縄自縛に陥った民主党政権の下で日米同盟協力は頓挫、日本の国益を大いに損ねた。野田首相の訪米でようやく「失われた3年」の付けを払うことになったのである。共同声明を実行する責任は野田内閣だけにあるのではい。政権の座に着いた民主党全体の責任である。消費税をめぐる党内政局で首相の足を引っ張るようなことでは同盟は再び危機に陥るだろう。
首脳会談にはクリントン国務、ガイトナー財務両長官が同席した。5月3日から北京で開かれる閣僚級の米中経済戦略対話に先立って日米関係の強化を確認した意味は大きい。一方、日本も4月30日インドとの間で閣僚級経済対話の初会合を開き、玄葉光一郎外相、枝野幸男経済産業相らが海洋安全保障やサイバーテロ対策などで政府間協議の立ち上げに合意したことは、日本のアジア外交を強化する上で大きな成果である。日米共同声明の柱はアジア太平洋地域と世界の平和、繁栄、安全保障の推進のため「あらゆる能力を駆使して役割と責任を果たす」ことである。その第1は安保・防衛協力であり、日本が動的防衛力を構築し、米国はアジア太平洋重視の戦略を進めること(米軍再編)である。第2に東アジア首脳会議(EAS)などを通じて国際的に受け入れ可能なルールと規範を支える制度の強化、第3に海洋、宇宙、サイバー空間のルールに基づく利用の確保である。いずれも中国の軍事的、経済的な力の増大が及ぼす影響をにらんだものになった。
安保関係は、首脳会談の3日前に発表された米軍再編についての日米安全保障協議委員会(2+2)の共同声明が基礎になっている。普天間問題を切り離した上での「日米同盟の抑止力強化」を目標に掲げた。米軍の態勢を「地理的により分散し」「運用面でより抗堪性があり」「政治的により持続可能な」ものを目指す。そのため、沖縄の第3海兵機動展開部隊(ⅢMEF)の1万9000人のうち9000人をグアム(5000人)、ハワイなどに分散、オーストラリアにローテーションによる配置を実施する。中国の弾道ミサイルの射程内にある沖縄から兵力を要所に分散することで抑止力を高めることを狙った。
2+2声明での注目点は、アジア太平洋地域における日米共同の新たなイニシアチブである。日本政府の政府開発援助(ODA)を活用する沿岸国への巡視船の提供など、海上交通路(シーレーン)の安全確保策は「米国の軍事外交戦略との相乗効果が期待できる」(玄葉外相)。さらにグアムや北マリアナ諸島連邦のテニアン島での自衛隊、米軍の共同訓練場の整備に対する日本の協力である。このような日米安保協力の具体策は抑止力強化に役立つことは明らかで、政策実行を遅滞なく進めるべきものである。そのことが首脳間で約束した「役割と責任」を果たすゆえんである。
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