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2012-05-08 00:00
朝日は「原発ゼロ」ではしゃいでいる時か
杉浦 正章
政治評論家
朝日新聞は「原発ゼロ」がそんなに嬉しいのか。ゼロをてこに「原発即時廃止」を狙っているのか。それで日本は生きてゆけるのか。すべての原発が止まった5月5日から6日にかけての朝日の紙面は、誰が読んでもそういう印象と懐疑心を持たせるものだった。他紙と比べて、明らかに常軌を逸した感情移入に満ち満ちており、その結果が及ぼす影響には全く目を向けていない。このまま「原発ゼロ」に向かって国民を誘導しようとする“意図”がありありと見られた。昨年の東京電力の節電を大幅に上回る負担を大阪府民に強いて、その結果がもたらす責任を負えるのか。8日の社説でも「大飯原発が再稼働しなくても、夏を乗り切らなければならない」と、その意図を一層鮮明にしている。
マスコミの原発再稼働に対する報道ぶりは、これまで朝日と共に反原発の最先端を走っていたNHKが、4日深夜の「時論公論」で大きく原発容認の路線にかじを切った。この論調は、翌日の「ニュース深読み」にも反映されている。これまでNHKは、恐らく社会部主導で、ニュース報道では事ある毎に反原発の姿勢を見せてきたが、組織内の良識派が論争に勝ったか、政界からの偏向批判の指摘があったのだろう。新聞の社説に相当する「時論公論」でエネルギー担当解説委員の嶋津八生は、「原発ゼロ」がもたらす悪影響を、微に入り細をうがって説明した。特筆すべきは昨年3月の東電の計画停電で「救急救命センターですら通常の診療を行えなくなったところが、半数に及んだ」と指摘、筆者のかねての警告と同様に「人の生死にまで関わってくる」と警告したのだ。「原発を含めた電力供給をどうするのか、日本が何にエネルギーを求めるのか、早く国民的合意が必要だ。さもなくば日本経済が衰退に向かう」とも締めくくった。このNHKの原発報道正常化によって、大手マスコミは読売、日経、産経、NHKが原発再稼働論または容認論となり、朝日が突出して反原発。毎日は良識派的な脱原発論の構図となった。首相・野田佳彦はこの重要ポイントを見逃すべきではない。
朝日の鬼の首でもとっったような意図的な論調は、まず見出しから始まる。6日の朝刊では「原発ゼロ分岐点」と大見出しを取り、明らかに国民を原発ゼロに方向付けようとしている。編集委員・竹内敬二に「電力選ぶのは私たち」という記事を書かせている。竹内は「政府はあわよくば全ての原発を稼働させようとしている」と根拠のない指摘をして、事実をねじ曲げている。「あわよくば原発をゼロにしたい」のが自分であることを棚に上げているのだ。「目指すのは国民が自分たちの手にエネルギー政策を取り戻すことだ」と、左翼の運動家が喜びそうな扇動をしている。おまけに紙面では取って付けたように「企業、節電の夏へ先手」という見出しで、企業を節電策に“誘導”しようとしている。しかしトヨタなど大企業は、昨年工場を土日に操業する変則勤務にした結果、社業・社員への影響が大きすぎて、今年は全く消極的だ。日産も最高執行責任者(COO)カルロス・ゴーンが日経電子版で7日「実施するのに大きな痛みが伴ったことを改めて強調しておきたい」と述べ、政府に「電力確保を」と訴えている。朝日は社説では、福島の事故と結びつけて「原発はゼロベースから考え直さなければならない」と強調した。
朝日の論調の致命的な欠陥は、各社の社説・論説が「原発ゼロ」で、この夏をしのげるかどうかを、具体例や数字を挙げて懸念しているのに対して、そこに踏み込まないことだ。節電と言うが、節電で効果が出るのは15%の不足のうちのわずか1%にすぎない。政府が電力使用制限令を出した場合、中小企業が耐えられるかにも触れない。ただでさえ息も絶え絶えの大阪の中小企業へのまなざしがない。朝日は停電でも発電機を活用出来るだろう。しかし中小企業はその余裕がない。停電が救命センターを襲って「停電殺人」になる可能性も見て見ぬ振りだ。世界情勢も中国が200基の原発保有にまい進し、韓国が新たに原発2基を建設するという、世界の「復原発」の動きも意図的に無視だ。これでは読者は机上の空論に踊らされるだけではないか。
まるで昔マルクス・レーニンにかぶれたお坊ちゃまのように、朝日の新聞貴族たちは空理空論に走っているのだ。もちろん福島の原発事故によって一時は約10万人が避難し、長期にわたる居住困難地域をつくり出したことには常に温かい目を向けなければなるまい。しかし、事故は1200年に1度のまぎれもない天災によって発生したのだ。これでエネルギー政策の根幹を律するのは、いかにも無理がある。むしろ救命センターの電源が止まって人が死ねば、初めて原発事故による死者が出ることになるではないか。犠牲者に朝日は責任を取れるのか。大阪府知事・ 松井一郎が「プールを無料で公開する」などと場当たり策をテレビでしゃべっていたが、噴飯物だ。まるで「パンがない」という庶民に「ケーキを食べればよい」といったマリー・アントワネットみたいな“とろさ”だ。大阪も、京都も、滋賀もトップは、「脱原発」と言うより、大衆にこびた「原発即時廃止論」に近いとみたほうがよい。野田は空論に踊らされるべきではない。粛々と規定方針通りエネルギーのベストミックスをめざして、手遅れになる前に再稼働に踏み切るべきだ。再稼働に踏み切らないで電力制限令などを出せば、自らのリーダーシップ欠如を世に示すことになる。無責任の極みだ。再稼働がなければ日本は躍動する近隣諸国を尻目に、亡国の道を確実に歩くことになる。
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