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2012-05-09 00:00
(連載)スペイン経済危機の本質的原因(2)
藤井 厳喜
ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役
南欧経済のピンチを救うために、ヨーロッパ中央銀行(ECB)は、大胆な資金供給を行なった。これは、「Long-term refinancing operations」通称、「LTRO」と呼ばれている。2011年12月と2012年2月の2回に渡り、ECBは合計1兆ユーロ以上の資金をユーロ圏の民間銀行に供与している。金利は1%で3年間に限り、希望した全額を融資するという大盤振る舞いであった。スペインの銀行もこれによって、一時的には救済された。3月になって、スペインの国債の入札は順調に消化され、利回りは急落した。しかし、この資金提供でも十分で無かった為に、4月になり、国債の金利が上昇し、ディフォールトの危機が再び浮上してきたのである。LTRO(欧州版量的緩和)によって、スペインの経済危機は、政治危機にある程度、転化された形となった。というのも、ECBは潤沢な資金供給を行なったが、その一方で、各国政府には厳しい財政規律の確立を求めたからである。
スペインも又、対GDP比の財政赤字の比率を8%台から5%台に切り詰めるという大きな責務を負わされている。2011年12月に誕生したラホイ政権は、内外の政治勢力と巧みな駆け引きを行ないながら、この大きな使命に挑んでいるが、非常に厳しい立場に追い込まれている。不景気の最中に、財政支出を更に切り詰めなければならないので、景気は更に悪化し、失業率は現在23%以上、24%にも到達している。25歳以下の若年労働者の失業率は何と50%以上である。スペイン国内では、ドイツ主導の財政規律強要に反発する声が日々、増大しつつある。EUの求めるような財政規律を実行すれば、失業率は更に増大し、実体経済は更に悪化してゆかざるを得ない。これを脱する方策としては、ユーロ圏を離脱し、旧通貨ペセタを復活させるという道も考えられる。この場合、ペセタは、ユーロに対して、著しく弱い通貨となり、極端なユーロ高ペセタ安の相場が生まれる事になる。
これを見越した富裕なスペイン国民は、外国に資金を逃避させている。ユーロ圏にとどまるには、厳しい財政規律が要求され、今後、実体経済は更に悪化せざるを得ない。ユーロを離脱し、ペセタに戻れば、それはそれで苦難の道が待ち構えている。まさに前門の狼、後門の虎といった状況である。スペインには、国家政府の財政問題以外にも、2つの問題が存在する。第1は、「カハ」と呼ばれる地方の小規模金融機関である。これは日本で言えば「信用金庫」や「信用組合」と言った存在に近いであろう。地方の政治的有力者や地方財閥がそのまま経営者となっている。それ故に、カハの経営は、市場合理性を追求するよりは、政治的あるいは人脈的なコネクションに左右される事が多い。こういった市場性の乏しい融資が、膨大な不良債権を生んでいる。中央政府も、カハを統廃合し、不良債権の処理に取り組んでいるが、地方財閥の既得権が絡んだ問題なだけに、簡単には片付かないのである。
2番目の問題は、地方政府の債務問題である。スペインの地方自治体は、財政自主権をもっており、個々にかなりの額の債務を抱えている。これが中央政府の頭痛の種になっている。問題の最終解決の為には、スペイン国内の地方自治法の改正も絡んできており、これもまた一筋縄ではいかない問題である。かねてから予測していた事ではあるが、ついにスペインを代表する国際的な銀行であるサンタンデール銀行やBBVAが、ラテンアメリカ諸国からの資金還流を始めた。つまり本国がピンチである為に、融資先のラテンアメリカ諸国から資金を回収し、本国に送還する動きが顕著になってきたのである。スペイン危機がメキシコ以南の中南米の経済成長をもスローダウンさせる危険が現実になってきている。(おわり)
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