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2012-05-12 00:00
シリアでのPKO活動参加問題と日本人の関心
水口 章
敬愛大学国際学部教授
北東アジアでは、北朝鮮と韓国間の緊張が高まっている。しかし、日本国内のメディアの関心は、小沢一郎衆議院議員の裁判で無罪判決が下りたことから一気に国内政局へと向かっている。かつて日本では、国内メディアの関心が拉致家族問題に大きく傾き、北朝鮮問題で国交正常化を進め、国際的に大きな問題となっていた同国の核やミサイル問題の解決の糸口を見出そうとしていた外交が頓挫したことがある(拉致問題が重要でないといっているわけではない)。その時、国際社会は、日本国民が北東アジアの安全保障の確立より拉致家族問題の方が重要な政治問題となることを不可解だとしていた。これから、メディアはおそらく取材しやすく国民の関心を引けそうな、小沢議員の裁判から民主党復党問題、そして9月の民主党代表選挙などの与党の党内情勢や、政界再編を視野に入れた衆議院解散関連の話題を大いに報じていくのだろう。そうなると、また日本国民の朝鮮半島情勢への関心が薄れることが懸念される。
日本に、政権交代があっても変わらない長期的な対外政策があれば、その政策を踏まえて外交政策や外交を執行することができる。しかし、現在のところ、政党を超えて、政治家、研究者、官僚が共有できる安全保障政策さえないように見える。そのことによって、議員外交や地方自治体の国際活動などで、それらの目的はともかく、結果的に国際社会から個人ベースの対外行動だとのマイナス評価を受けてしまう「新たな外交課題」が生まれている。今、日本を取り巻く国際環境は、小泉政権当時と類似しており朝鮮半島問題と、中東地域に関する国際貢献問題についての政策立案を迫られている。小泉政権では、朝鮮半島問題に関する日米の国際協調がスムーズでなかったことから、米国の中東政策を、より積極的に支援した。小泉政権当時のイラクでの国際貢献と、現在のシリアでの停戦監視活動との違いを上げれば、国際要因では、今回は国連から要請(4月25日)されている点である。また、国内要因では、法的根拠について、小泉政権ではイラク復興支援特別措置法の国会審議が難航したが、今回のシリア問題は国連平和維持活動(PKO)であるため、野党が、停戦合意はあるが停戦状況になっていないことを問題視して政局に持ち込まない限り障害は小さいという点が挙げられる。
また政策立案過程においては、当時の自民党と政府間の連帯性に比して、野田政権においては、政府内での政策調整(例えば外務省と防衛省)や、与党内での対立も懸念される。シリアへのPKO派遣問題でポイントとなるのは、政策立案上、派遣された者が負う「リスク」をどう見るか、また、「国益」「国際協調」「人間の尊厳」といった外交政策を考える上での3要因をどのように分析するかである。さらに、南スーダンおよびゴラン高原での日本のPKOとの関係についても考慮する必要がある。私の結論は、シリアでのPKOには貢献すべきというものである。シリアへのPKO派遣は、次の3点が理由である。第1は、シリアで今後、平和的に市民が求める公正、公平な国づくりが進められるためには平和構築の必要性がある。第2に、1万人近くの死者や多数の難民が出ているに鑑みれば、派遣の緊急性はある。第3に、300人規模の停戦監視員による国際介入は、シリアの内政バランスを直接的に大きく変えるものではなく、均衡性があるといえる。
この点を踏まえ、日本政府が世界の平和を希求するとの憲法の理念に照らして、積極的に国際協調政策をとり、1カ国平均数人程度との国連の要請に二桁に近い派遣人数で回答することを期待する。また、そのことが、シリアの人々の人間の尊厳を守ることになり、加えてサウジアラビア、カタールをはじめシリア情勢の鎮静化に努めている湾岸アラブ産油国への強いメッセージとなり、国益にもかなうことになる。もし、今回のPKOが失敗に終われば、国際社会はNATO加盟国であるトルコ領内へのシリアの発砲を理由に、NATO条約第4条に基づいて、シリア領内に安全地帯や人道回廊を設置するという段階に入っていくだろう。そうなると、シリアでの内戦が定着化し、犠牲者が今以上に増える可能性がある。それは避けるべき道筋だろう。その意味で、国民もマスメディアも政局のみに目を向けるのでなく、北朝鮮問題をはじめシリア問題などの国際情勢に関心をもってもらいたい。
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