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2012-05-22 00:00
「日中高級事務レベル海洋協議」を大切に育てよ
角田 勝彦
団体役員
5月16日、中国杭州市で「日中高級事務レベル海洋協議」の初会合が開催された。これは東シナ海での不測の事態に備えた危機管理体制の構築を目指すもので、4月中旬石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島を都として購入する方針を示すなど日中関係がぎくしゃくする中、「静かな外交」の好例である。この関連で5月24日に予定された中国人民解放軍の制服組トップである郭伯雄中央軍事委員会副主席の訪日が延期されたのは残念だが、今後の日中高級事務レベル協議の継続が期待される。
5月20日、那覇地裁は、平成22年9月に起きた尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、公務執行妨害などの罪で強制起訴された中国人船長の公訴棄却を決定した。中国側の拒否により、刑事訴訟法に規定された起訴から2カ月以内の5月15日までに船長に起訴状が送達されず、効力を失ったためである。この拒否自体はともかくとして、尖閣諸島を巡る中国側の自国領土との主張は変わらない。例えば、日中韓3カ国首脳会議に際し、野田佳彦首相は13日に北京で温家宝首相と約一時間会談したが、尖閣問題での対立が表面化した。日中両政府は中国漁船衝突事件後、日中国交正常化40年の今年にかけて尖閣問題の沈静化を図っていたが、本会談では温首相が尖閣諸島は中国領との従来の立場を主張したのに対し、野田首相は「尖閣を含む海洋での中国の活動の活発化が日本国民の感情を刺激している」と述べ、「この問題が日中関係の大局に影響を与えるのは望ましくない」と指摘した。
胡錦濤国家主席が14日、野田佳彦首相との単独会談の求めに応じなかった(韓国の李明博大統領とは会談した)のには、亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」代表大会が5月日本で開かれたことや、尖閣諸島をめぐるこの対立が影響したとされる。尖閣問題の鎮静化を図る両政府の意向は消えたわけではない。中国中央テレビは5月14日、「(石原知事の購入方針表明は)両国関係を後退させるものだが、日本政府の公式な立場を代表するものではない」とする識者インタビューを放映した。このように、国内の強硬世論を念頭に、冷静な対応を求める報道が目立っている。しかし、問題なのは、現地の具体的動きである。中国漁業監視船が日本の接続水域に出入りする行動も繰り返されている(最近では5月2、3日)。4月末の日米首脳会談では中国の海洋進出を意識した防衛協力強化を確認していた。
尖閣周辺海域で漁船衝突事件のような不測の事態が起こらないようにするのが重要なのである。危機管理の仕組み作りや連絡体制の構築が重要なのである。日中両国は、海洋安全保障と海洋境界の画定について、すでに長い時間をかけて交渉してきた。野田首相が昨年訪中した際に、双方は新たな包括的対話枠組みの設置で合意した。これが5月16日の「日中高級事務レベル海洋協議」として結実したのである。中国側は今回の協議で「静かに話し合いたい」と要望し、冒頭取材を認めず報道陣を会場に近づかせないなど配慮を行った。郭中央軍事委員会副主席の訪日を機に、防衛当局間でも海上連絡メカニズムの創設に向けた協議の本格再開が目指される予定だった。このような「静かな外交」により、不測の事態を含む武力衝突の可能性が減殺されれば、日中両国にとり、得るものは大きいだろう。両政府の努力に期待する。
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