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2012-07-05 00:00
(連載)米陸軍の抱える二つの戦略課題(2)
河村 洋
外交評論家
オディアーノ大将は、「実際にアジア回帰については他の地域を放棄するという意味ではなく、アジアを戦略的優先地域とすることだ」と明言し、また「我々の役割とビジョンは地域での反応力を高め、世界規模で関与をしてゆくことである」と述べた。地域の力配分に加えて、現在の戦争では敵の特定が難しくなっている。敵は国家、反乱分子、テロリスト、非国家アクター、あるいはそれらが複合されたものかも知れないという。そうした複雑な事態に対処するために、オディアーノ大将は予防、具現化、勝利という3段階があると語った。予防の段階では敵対勢力にアメリカの意図を誤解させないことが重要だということである。この主張はジョン・マケイン上院議員が4月にカーネギー国際平和財団でアフガニスタンに関する講演で強調した内容と重複する。マケイン氏は「性急な撤退を行なってしまえばテロリストと反乱分子が、アメリカにはアフガニスタンの治安回復を支援する気などないと誤解しかねない」と述べた。
具現化の段階ではさらに多様な要因が関わってくる。何よりも各地域で現地の国々とのパートナーシップの形成が鍵となる。アジアの戦略的な優先順位が高くはなるが、中東には依然としてアメリカの強力なプレゼンスが必要である。またオディアーノ大将は「アメリカ陸軍が合同演習を通じてヨーロッパ、アフリカ、南アメリカとのパートナーシップの強化を模索している」と訴え、こうした目的のために「我々は違う地域に部隊をローテーションさせ、これら全ての地域で同盟国やパートナーと共に問題に対処し、強力な関係を構築したい」と語った。注目すべきは「部隊をローテーションさせ」という部分で、それはこの考え方はこれまで実行されたことがないからである。
その先駆けとして、オディアーノ大将はNATOの緊急反応部隊がヨーロッパ内外をローテーションして合同の訓練、演習、任務に服することに言及している。アジア太平洋地域では日本、オーストラリア、フィリピンなどの間で同様の案が適用されることになっているので、私はこれについて論評を加えたい。東アジアではローテーションによって「米軍基地の過剰集中」という「沖縄の負担」を軽減できると期待する向きもある。しかしそうした期待は性急である。斬新な戦略が実施される際には、しばしば現実との整合がはかられる。イラクではドナルド・ラムズフェルド元国防長官が掲げた少数精鋭部隊を基本としたRMA戦略は失敗し、増派によって事態を乗り切ったことを忘れてはならない。日本の左翼はこのことを銘記すべきである。ローテーション戦略はヨーロッパでもアジアでも計画されているので、この新しい戦略概念にはもっと全世界の注目が集まってもよいと私は考えている。
オディアーノ大将はNATO緊急反応部隊と合同訓練に言及し、アジア回帰に対するヨーロッパ人の懸念に配慮を示した。『フィナンシャル・タイムズ』紙は5月21日付けの記事で「強固な大西洋同盟があってこそ、アメリカはアジアに集中できる」と主張している。また、私は多国間の行動が必要な時に、アメリカの世界規模での作戦行動で信頼できるパートナーとなるのはNATO同盟国であることにも留意して欲しい、と考えている。遺憾なことに、先のシカゴ首脳会議でオバマ氏はヨーロッパにアメリカの戦略目的を充分に説明していなかった。イラク戦争でブッシュ政権の「単独行動主義」を非難した者にとって、これはまさに皮肉である。ヨーロッパの左翼は「チェンジへの希望」に裏切られたのである。(つづく)
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