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2012-07-06 00:00
(連載)米陸軍の抱える二つの戦略課題(3)
河村 洋
外交評論家
国家対国家の関係に加えて、陸軍は他の組織とのパートナーシップも築き上げる必要がある。こうした省庁間のパートナーシップはJIIMと呼ばれ、それは「合同、政府間、省庁間、多国間の環境(Joint、Intergovenment、Interagency、Multinational Environment)」を意味する。基本的な考え方は、軍事力自体には限界があるので陸軍は国務省、国防総省、財務省、司法省といった文民省庁と提携し、複雑さを増す安全保障情勢の中で戦略を形成してゆくことが必要になるというものである。また人員資材の配分についても考慮が必要である。陸軍の人員が削減されるとあって、特殊部隊の強化によってテロリストと反乱分子を掃討することがきわめて重要になってくる。
こうした目的のために、オディアーノ大将は軍の編成において適正な部隊構成を模索する必要性を強調した。例えば重装備-中規模装備-軽装備の部隊の構成バランス、通常部隊と特殊部隊の構成バランスなどが挙げられる。この講演では軍事技術の進化も国際安全保障に新たな課題を投げかけるものとして議論された。科学技術の進歩によって、宇宙とサイバー空間も陸、海洋、空とともに世界人類の共有財産となった。オディアーノ大将は「それぞれの国家アクターと非国家アクターが宇宙とサイバー空間にアクセスでき、誰の管理も受けずにアクセスをしたいと望んでいる」という事態を問題視している。従来の共有財産とは異なり、中国が外国の政府機関に悪名高きサイバー攻撃を仕掛けたように、世界人類の新しい共有財産では規範の不在を悪用する国もある。
他方でITの発展はアメリカ陸軍にとって自らの能力の向上にもつながるという好ましい変化ももたらしている。コンピューター・ネットワークによりどこにいても同じ訓練ができるようになると、米軍は特定の任務について全世界の同盟国軍とサイバー空間で共に訓練できるようになる。オディアーノ大将はこれによって米軍も同盟国軍も1ヶ所に集まるための交通費を削減できると述べた。戦場においてはコンピューター・ネットワークによってリーダーシップの分権が進み、第3段階の勝利が近づいてくる。また6月15日放映のCBSニュースのインタビューでは「我々はアフガニスタンの戦地で小隊を指揮し、難しい決断を迫られることが多い22~23歳の中尉に権限の多くを与えている。よって実戦を通してリーダーシップを学んでゆくようになる。我々は若い現場指揮官の能力を早く向上させ、年齢経験を積むとともに彼らの能力が洗練されてゆくように支援し続けねばならない」と述べた。以上のようにオディアーノ大将は講演全体を通じて緊縮予算の下での新戦略を明解に説明した。またアジア回帰について語る際に、アメリカが自分達に対して悪意なき無関心に陥るのではないかというヨーロッパ人の不安には配慮を見せた。同盟国には戦略的に重視される地域のシフトよりも米陸軍の構造的な変化の方が大きな影響をもたらす。それはアメリカとの新しい防衛パートナーシップに対応してゆかねばならないからである。
ともかくオディアーノ大将が講演で語ったことは、政治的に中立でシビリアン・コントロールに従う軍人の権限の範囲内でのものである。「政治のリーダーシップ」についてはどうだろうか?オバマ政権は変化の激しい世界情勢の中でヨーロッパと中東との関係をどのように刷新してゆくのか、明確な態度を示していない。バラク・オバマ大統領はNATOシカゴ首脳会議でヨーロッパ諸国の懸念を和らげることができなかった。シリアなど中東の混乱についてもアメリカの指導力を印象づけることにはあまりに消極的である。戦略的に重視しているアジアについてさえ、オバマ氏は中国に対して明確な態度を示していない。大統領選挙でオバマ氏の対立候補となるミット・ロムニー氏は、そうした外交政策での不鮮明な態度を問い質す必要があるが、現時点での選挙討論は国内経済にばかり目が向いている。陸軍は自分達がなすべきことを整然と行なっている。しかし「政治のリーダーシップ」が欠如してしまえば、制服組の努力が水泡に帰してしまう。(おわり)
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