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2012-07-20 00:00
橋下は自らを懲戒処分にすべきだ
杉浦 正章
政治評論家
「百年の恋も一時に冷める」というか「百日の説法屁一つ」というか、床屋談義風に言えば「大阪の橋下はんもえらいスキャンダルだすなぁ」。それよりも驚いたのは7月18日に「コスプレ不倫」が明らかになって、追及すべき記者会見の場が、お追従質問が出るような、なれ合いで“和気あいあい”の雰囲気であったことだ。市長・橋下徹の笑顔と笑い声に満ちていた。馬鹿丸出しのテレビのコメンテーターがこれを見て、「大阪市民は橋下さんに聖人君子を求めていない」と宣うたのも無理はない。大阪はスキャンダルに甘いのだろうか。確かに会見はまるで半世紀前の政界に戻ったような「甘ちゃん」同士のやりとりであった。大阪市営地下鉄運転士には「たばこ1本で停職1年」という厳しい懲戒処分を行いながら、自らの不倫疑惑には満面笑みで言い訳して、逃れられるのか。これでは大岡越前ではないが「御政道が成り立ちませぬ」のだ。アメリカなら「維新の会」などすっ飛ぶほどの問題なのが分かっていない。
確かに政治家と女性問題は、宇野宗佑が1989年に神楽坂の芸者に「3本指でどうだ」と30万円で愛人になるよう誘って、首相の座を棒に振るまでは、寛容な雰囲気があった。「へそから下の話は男の甲斐性」的な雰囲気があった。三木武吉は対立候補から「愛人を4人も囲っている」と攻撃を受けたとき、「4人は正確ではない。正確な数は5人であります。この女たちはいずれも、身寄りのないものであります。私が捨てれば、彼女等は路頭に迷うだけでしょう。これを捨て去るような不人情なことは、私にはできません」と反論、堂々の当選を果たした。大野伴睦は暴漢に身を捨ててかばった芸者を愛人にした。その大野が「おれは一生一人の女を守ってきた」と発言、「二号さんがいるじゃないですか」と言われ、「だからたった一人の二号を守ってきた」と述べたという。おおらかな時代であった。
大阪の18日の記者会見は、その半世紀前の“おおらかさ”が残っているように見えた。記者が「コスプレをお好きなんですか」と、問題意識ゼロで“ヤワ”そのものの質問をすれば、橋下は満面に笑みをたたえて「それはメディアに出ているときから言ってましたけどね。茶髪にしていいかげんにやっていたときは、いろいろありますんでね」と得々として答えた。もっぱら「家庭内のことですから」と強調して、「娘には制服を着ろとは言えなくなった」と冗談を飛ばした。この橋下の姿勢は、冗談に紛らせながら事を「過去の出来事」であり、「家庭内のこと」であるというところに矮小化し、マスコミを誘導しようとする姿勢がありありとみられる。「知事になる前は聖人君子のような生活をしていたわけではない」と言い訳する姿勢は、過去の不倫ならマスコミも追及しまいという判断が見え隠れする。「妻が大変」と強調して「ここでずっと泊まり込むか」と、こともあろうに神聖であるべき市庁舎に泊まって、別居するとも言う。公人としての意識がないのだ。記者団は公私混同を追及すべきところなのに、問題意識ゼロで笑っているというありさまだ。
過去の問題で済むかと言えば、高い倫理性を求められる米大統領選挙では全く済まされない。共和党候補指名争いでケイン候補やギングリッチ候補が敗退したのは、10年も20年も前からの女性スキャンダルのためだ。予備選挙の段階で、マスコミはもちろん対立候補も、あらゆる手段を使って相手候補のスキャンダルをあばく。とりわけ愛人問題や不倫、セクハラは格好の材料だ。1年間の選挙期間は長く、スキャンダルへの危機管理が出来ない候補は次々に淘汰(とうた)されてゆく。攻撃に耐え抜いて生き残った候補だけが、大統領候補として成り立つのだ。だから“強い”大統領が生まれ、宇野のように就任後3日でスキャンダルが暴かれるようなことはないのだ。政界は橋下に「大阪を都にせよ」など数々の暴論を唱えられて、「はいはい橋下様」と維新の会ブームに逆らわないようにしてきた。みんなの党のようにこびを売る党もある。しかし「脱原発で倒閣論」をぶった橋下が「再稼働容認」、「野田礼賛」とくるくる変わるのを見て、「しょせんは田舎大名が馬脚を現し始めた」(民主党幹部)という見方が定着し始めている。そこにこのスキャンダルだ。大いなる時代錯誤と大いなる田舎ムードの大阪市民も、ミニヒットラーのこの体たらくには、さすがに目を覚まし始めたのではないか。記者会見も19日になって遅ればせながら厳しい質問が出始めたという。これで府知事や市長になってからのスキャンダルが出れば、一巻の終わりとなる。
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