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2012-07-26 00:00
(連載)転換点を迎えつつあるシリア情勢(2)
水口 章
敬愛大学国際学部教授
そこで、注目したいのは、アサド政権を支えていると思われるロシアと中国の対シリア政策である。両国は7月19日(ニューヨーク、午前)、国連安保理で、この10カ月で3度目となる拒否権を発動し、米・英・仏・独・ポルトガルの5カ国が提案した対シリア決議案を廃案とした(賛成11、棄権2、反対2)。採決の前に、中国の「環球時報」(7月19日付)がシリア問題について次のように報じている。(1)ロシアと協調した投票行動をとるべき、(2)シリアの結末が西側の望むとおりになろうとも、中国の行動は間違っていない、(3)弱小政権(ポスト・アサド後のシリアの新政権を想定していると思れる)が強大な中国を敵とすることはあり得ない。
こうした論調から、中国はシリア問題を、「西側」が自らの国益のために主権国家に国際介入をしようとしているのに対し、自らの「反介入」論は正義であると開発途上国向けアピールの機会ととらえていると推察できる(例えば、18日の中国・アフリカ・フォーラムでの胡首席の発言)。それはロシアも同様だろう。したがって、両国は国益が守れるのであれば、バッシャール・アサド大統領がだれに政権の座を移譲しても問題はないと考えているだろう(ロシアのオルロフ駐仏大使が、アサド大統領が政権移譲をめぐる交渉を委ねる代表者を指名したことは同大統領が退陣を受け入れたことになる旨述べた、とフランスRFIラジオが20日報じている。)。両国にとってあってはならないことは、「西側の正義」が正当化されることである。
さて、以上の点を踏まえてシリア問題のリスク連鎖を考えてみると、次のようなことがいえるだろう。国際レベルでは、冷戦時を思い起こさせるイデオロギー的対立が見られているものの、それが代理戦争へと発展する蓋然性はかなり低いといえるだろう。また国家レベルでは、アサド政権が崩壊した場合でも、周辺諸国で宗派対立(シーア派対スンニー派)、国家間対立(サウジ対イラン)へと直接つながっていく蓋然性も低いと考えられる。したがって、中期的にエネルギーの需給バランスが大きく変わる状況が生まれるとは考えにくい。
ただし押さえておきたい点は、経済制裁の効果や戦闘・暗殺等でバッシャール・アサドの側近グループが縮小したとしても、自分が属する利益集団を守るために現体制内に残ることしか選択できない人々がいるということだ(例えばシャビーハ)。そうした人々が、仮に化学兵器などの大量破壊兵器を使って国外でテロ行為を実施した場合、短期的にエネルギー危機が発生するというリスクはある。なお、日本が、エネルギーの安全保障をこのような中東地域に委ねていることや、他国との送電網やパイプラインがない島国という地理的状況にあるという脆弱性の高さを再度確認しておきたい。(おわり)
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