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2012-08-01 00:00
早期解散なら「維新」が民主を直撃
杉浦 正章
政治評論家
一見「当たらず障らず」のようだが、実際は“水に落ちた犬”をたたき始めているというのが、大阪市長・橋下徹に対する政界の潮流だ。「当たらず障らず」なのは、山口県知事選の橋下系候補に対する自公の戦術や与野党7会派提出の大都市地域特別区設置法案の提出などの、“争点回避”の動きを見ればわかる。逆に、橋下の女性問題を契機に、公然と批判する声も強まった。要するに、政界は橋下への「チヤホヤ扱い」だけでなく、「メッキはがし」という“両刀遣い”をやるようになってきたのだ。知事選の結果では、自公両党より民主党の浮動票を維新の会が奪う流れがくっきりと現れた。6万7000票の大差で自公候補・山本繁太郎が原発反対の橋下系候補・飯田哲也を下した選挙結果は、総選挙を占う上で極めて興味深い。飯田は、民主党が候補を擁立できない間隙を突いて立候補したが、その主張はエキセントリックな反原発一筋。山本は自公両党のアドバイスもあって、あえて原発の争点化を避けた。この結果、飯田にとってのれんに腕押しの結果を招いて、当選に遠く及ばなかった。しかし、重要ポイントは他にある。浮動票の流れだ。朝日の出口調査の結果がそれを物語っている。
無党派層の投票動向だけを見ると、飯田が53%に達し、山本が27%とその半分にとどまった。これが意味するところは、3年前の総選挙で圧倒的に民主党へと流れ、政権獲得への原動力となった浮動票が、第3極に流れる兆候を示していることだ。しかし、自公両党は、自民が支持層の76%、公明が支持層の85%をまとめており、総選挙の時のような支持層の離反傾向は見られなかった。これが意味するところは、浮動票を失った民主党は惨敗し、自公は締まってかかれば支持層をまとめられる流れであろう。恐らく候補を立てれば、民主党は3位に終わったであろう。第3極が民主党を食う構図が顕著に浮上したのだ。こうした傾向の反映もあって、橋下の主張する「大阪都構想」を後押しする「大都市地域特別区設置法案」がなんと7会派共同で提出され、7月31日審議入りした。8月中には成立の運びだ。東京23区のように複数の特別区をつくれるようにする法案だ。しかし肝心の橋下が掲げた「都」への名称変更は盛り込んでいないため、実際には「大阪都」は実現しない。なぜ7会派がまとまったかだが、民主、自民の狙いは「触らぬ神にたたりなし」だからだ。
対等に戦って相手を大きく見せては損だという、深謀遠慮が背景にある。公明は大阪と兵庫に6選挙区も候補を抱え、維新の会との連携を不可避と考えているのだ。民主党には「これで維新の会は国政に進出する理由がなくなった」(幹部)という楽観的な見方も出てきているが、これは希望的観測で甘い。反原発にせよ、浮動票を稼ぐテーマには困るまい。自民党幹部は「化けの皮がはがれるまでは、ケンカをしないということだ。やがて馬脚が全部現れる」と見通しを述べる。既に女性問題を契機に橋下批判の合唱が始まりつつある。同幹部は「普通の不倫ならまだしも、コスプレはいかん。山崎拓が文春に変態と報じられて、首相の芽を断たれたのと同じだ」とも分析する。確かにスチュワーデスの制服が、橋下のイメージとダブるようになった。今後もたたり続ける流れだ。裏情報の野中広務は、テレビで「報道された女性問題はもっと人気を落とす事件に発展する」と不気味な予言をして、「国政のトップに立てる人ではない」とこき下ろす。民主党最高顧問・渡部恒三も「大阪のあんちゃんがいろいろ女性で話題になっているが、これで時間の問題となった。来年になったらそんな人いたかということになる」と切り捨てた。
政党幹部も旗幟(きし)鮮明にし始めた。自民党総裁・谷垣禎一が「橋下さんが言うことは、私どもとかなり違う」と一線を画したかと思うと、民主党幹事長・輿石東は「橋下さんとどう付き合うかは、あまり積極的に付き合おうとは思っていない」と述べている。政界の橋下に対する見方は、大阪における維新の会躍進当初の危機感から、脱しつつあるようである。橋下自身の政治家としての能力も、反原発から原発再稼働容認へと転換したり、「政権を倒す」と息巻いたと思ったら、首相・野田佳彦を褒めあげたりで、はちゃめちゃだ。今度の小選挙区制支持発言も、政治への無知をさらけ出した。いまや同制度は政治の停滞の原因であるという見方が支配的になっており、中選挙区に戻る流れが生じているのだ。推進役であった河野洋平が「反省」して、制度改正にその主張を転じたことも理解していないのだ。メッキは確実にはげるが、問題はその時期だ。総選挙が迫っており、はげ切らないまま突入という事態も考えられる。その場合は維新の会が、自公より民主党に壊滅的な打撃を果たす公算が強い。山口知事選はその“走り”なのだ。
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