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2012-08-06 00:00
「尖閣」で鮮明になった中国の「三戦」工作
鍋嶋 敬三
評論家
平成24年版防衛白書(7月31日閣議了承)や尖閣諸島問題に対する中国の対日非難を見ると、中国人民解放軍が「三戦」工作を着々と進めていることが鮮明だ。中国は政府機関の公船による日本領海侵犯を繰り返し、「軍事の意思決定プロセスの透明性に対する懸念」(白書)にも「内政干渉」と批判した。中国はベトナムやフィリピンなどと係争中の南シナ海の紛争でも一方的に「中国の主権」論を振りかざしている。「三戦」は2003年、人民解放軍の政治工作に追加された。敵の士気をくじく心理戦、中国の軍事行動を支持させるメディア戦、中国の主張に国際的な支持を得るため国際法や国内法を動員する法律戦の3つを指す。米国防総省による中国の軍事力報告書(2011年8月)でも取り上げられた(拙稿・百花斉放NO.2067)。防衛白書によれば軍機関紙は2011年10月、三戦が「常態的な作戦手段および作戦様式」となっていることを指摘した。周辺諸国との間で摩擦を起こす軍事的行動の正当性を内外に認めさせようとする狙いがある。
「中国の軍事上の意思決定や行動に対する懸念」(白書)はつまるところ、誰(機関)がどのようなプロセスで軍事・安全保障戦略を決めているのか、不明なところから生じる。2004年には国際法違反である日本領海での中国原潜の潜没航行事件があった。2007年には対衛星兵器による人工衛星破壊実験を行い、宇宙空間における軍事開発の脅威が現実のものとなったが、いずれも日本や国際社会が納得できる説明はなされないままだ。大国として国際的な責任を果たしていない。中国共産党が人民解放軍を指導する建前だが、防衛白書は党と軍の関係が「複雑化」していることや、対外政策決定における「軍の影響力の変化」などの見方を紹介して「危機管理上の課題」として注目した。背景には公表国防費が名目上過去5年間で2倍以上に急増、軍の近代化と専門化が進んで軍の発言力が増したことや、指導部内の権力闘争も一つの要因として考えられる。中国は防衛白書に対して「『軍事脅威論』を誇張する内政干渉」(国防省報道官)と反発したが、不透明さに対する国際的な懸念を払拭することが先決である。
日本近海では2008年以降、中国の海・空軍の軍事行動や海洋資源保護を名目とする公船による活動が活発化した。同年、国家海洋局所属の公船が尖閣諸島付近で領海侵犯、2010年には領海内で巡視船に漁船が体当たり、2011年そして2012年も3月、7月と公船による意図的な領海侵犯が続いた。このような行動は「三戦」の方針に基づいて「中国の主権」の主張を既成事実として積み上げ、日本国民や国際社会にアピールするのが狙いだろう。排他的経済水域においても自国の管轄権が及ぶとして米国の軍艦、船舶、航空機の活動も制限するなど「法律戦」を展開している。
米下院軍事委員会で8月1日証言した戦略国際問題研究所のバートウ上級副所長とグリーン上級顧問・日本部長はアジア太平洋地域の戦略的不確実性とは中国がこの先数年間、地域の秩序と安定にどのような影響を与えるのかという問題だと指摘した。米国が採るべき政策は米中2国間協力の強化の一方で、この地域が中国中心の軌道に乗せられたり、近隣諸国に対する威圧が新たな選択肢となるという思考を中国にさせないことだという。秋に指導部が交代する中国がどのような外交・軍事戦略を新たに打ち出すかどうかにかかわらず、日本としては「動的防衛力」の構築をうたった新防衛計画大綱に沿って、南西諸島を重点に防衛力整備を急ぐとともに、民主党政権3年間で著しく後退した日米同盟協力を強力に推進しなければならない。
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