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2012-08-20 00:00
南シナ海と同根の尖閣不法上陸
鍋嶋 敬三
評論家
日本政府は尖閣諸島の魚釣島に8月15日不法上陸して逮捕した香港の活動家を前例に沿って強制送還した。中国が要求した「即時、無条件の釈放」の要求がまかり通り、活動家は英雄視された。新華社の「釈放は賢明な行動」とする評論が「中国領土」を内外に喧伝する中国の思惑通りの展開になったことを裏付けている。政府は公務執行妨害罪を含めて裁判の手続きを経て厳正に処分を決定すべきであった。それが日本の国土を守る毅然とした姿勢として世界に向けたメッセージになったはずである。中国の監視船に続いて台湾の巡視船も7月に尖閣海域で領海侵犯した。これが中国やロシアであるならば、警告を無視した領土・領海侵犯には銃撃を含む武力行使の強硬措置を取った上で、厳罰を科すであろう。しかしながら、日本は、国家主権について毅然たる態度を取らず、一時的な対立を恐れて、ことを穏便に済ませようとした。「事なかれ主義」の失態である。主権侵害は「外交力の低下」のためという議論もあるが、むしろ十全の警備実施体制や法的な整備の意思を欠いた「政治、統治能力の低下」が中国や韓国などから侮られていると見るべきである。外交は外務省だけでできるわけではない。野田佳彦首相は「領土や国家主権の問題には、不退転の決意で身体を張って取り組む」と述べたが、領域整備法の整備など実を伴わなければ「張り子の虎」だ。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」(日本国憲法)できるほど、日本が直面する国際政治の現実は甘くない。
視野を東南アジアに広げれば、尖閣上陸は南シナ海の領有権をめぐる中国とベトナムなど6カ国・地域との紛争と同じ根っこに属する問題であり、経済的、軍事的に膨張を続け、資源を求める中国の拡張主義の一環ととらえられる。フィリピンの排他的経済水域内のスカーボロ礁を巡って4月以来続く紛争を、日本政府は研究し、今後の対策に生かすべきである。約10隻の中国漁船の違法操業取り締まりのためフィリピン海軍のフリゲート艦が出動し、漁民を逮捕しようとしたところ、4隻の中国政府の監視船(公船)が割って入り、威嚇したため、非力のフィリピン側はなすすべもなく、手を出せなかった。中国は実力をもって紛争地域の領有権の主張と実効支配ぶりを国際社会に見せつけたのである。竹島への韓国大統領の上陸強行と軌を一にするパターンである。
フィリピンは米国の条約上の同盟国だが、反米感情から1991年に米軍基地の使用期限延長反対を上院が決議、ベトナム戦争中、東南アジア最大の基地であったクラーク空軍基地とスービック海軍基地が閉鎖された。米軍の存在が一挙に弱体化したスキを突いて、中国が南シナ海に拠点を築いたいきさつがある。フィリピン海軍は、旧式で小規模の艦艇があるだけで、改めて米国に支援を頼まざるを得ない羽目に陥ったが、時既に遅しである。一時的なナショナリズムの高揚で払った安全保障上のつけはあまりに大きかった。
東南アジア問題の専門家であるM・リチャードソン氏は、中比紛争最中の6月に紛争の行方について、(1)外交的に抑えられるか、(2)中国が弱い国や国土防衛に強い決意を持たない国に勝つか、(3)武力紛争に発展するか、の3つのパターンを挙げた。米国や日本がかかわれば、アジアを不安定にする広域の紛争につながる危険性を指摘している。尖閣諸島で7月も政府公船3隻が領海侵犯を繰り返した中国が、フィリピンの場合と同様に「自国民保護」を名目に日本の巡視船の前に立ちはだかったらどうするか。「中国の領土」のイメージを国内外に広げるだけでも成功であろう。中国指導部は秋の交代を前に政権の安定のため適当なところで矛を収めるかもしれないが、その主張を内外に定着させようとする「三戦」戦略は変わっていない。
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