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2006-10-25 00:00
大人になれない日本のマスメディア
内田忠男
名古屋外大教授
中川昭一・自民党政調会長の核兵器研究発言を巡るメデイアの不見識を咎められた田久保忠衛、伊藤憲一両氏のご意見に全面同意するとともに、日本の大人になれないマスメディアの有り様に改めて慨嘆せざるを得ない。
世界で唯一の核兵器被災国として、日本が全世界に向けて核兵器の廃絶を叫ぶことは当然すぎるほど正しい。が、叫び続けては来たが、核廃絶を取り巻く情勢は前進するどころか、退歩を余儀なくされてきた。核兵器の不拡散に関する条約(NPT)が発効した時点で5カ国だった保有国は8カ国に増え、今回の北朝鮮の実験が成功していたとするなら9カ国に増加したことになる。この間に保有国となったイスラエル、インド、パキスタンは条約に加盟さえしておらず、北朝鮮は脱退を表明したままだ。条約自体は無期限延長されたが、これほど実効性に乏しい条約では、再検討会合が不毛の議論に終始するのも止むを得ない気がする。
その一方で、せめて全ての核実験を禁止しようという包括的核実験禁止条約(CTBT)は、発効の基本要件として批准を求められた44カ国のうち、たしか米国を含めた12カ国がまだ批准をせず、国連総会での圧倒的多数による採択から10年余を経た今日に至るも発効すらしていない。核廃絶に向けた我が国の努力が、全くといってよいほど効果を上げていないのが現実だが、我が国内には、この厳しい現実を直視して、運動が何故進まないのか、戦略戦術において足らざる点がないのか……といった真摯な議論が一向に起こらない。国際社会には「日本がどこまで本気で叫んでいるのか」訝しむ空気さえある。
「日本は自己満足のキレイ事を言ってるだけで、核保有国に思い切って切り込む発言もしない。核廃絶という容易ならざる主張を国是として掲げるからには、それなりの覚悟が必要ではないのか」西欧の非核保有国の国連大使から聞かされた言葉だ。この大使は「毒を以て毒を制すという諺が日本にもあるでしょう」と微笑した。こうした中で、我が国のマスメディアが、上記のような議論作興に向け本気で努力をした形跡も記憶もない。「作らず、持たず、持ち込ませず」という非核3原則にひたすら寄り掛かって、そこから一歩でもはみ出す議論はタブーとして自ら封殺し、第3者が言及でもしようものなら寄ってたかって袋だたきに圧殺する。
仲間内の大勢の空気を測りながら気の合う者同士だけを囲い込み、その外にいる仲間には陰湿そのもののいじめを繰り返して恥じない、やがてそれが悲惨な自殺という、恐らく想定外の結果につながっても、反省や改悛の情が広がらない。中川発言いじめの論調を読んでいて、日本のメデイアの思考構造が、小学校や中学校で日々繰り返される愚行とあまりに似通っていることに恐怖さえ感ずるのである。
首相ら公職者の靖国参拝に関する過剰としか言いようのない報道姿勢にしても、「心の問題」「政治問題化を避けるために参拝したとも、しないとも言わない」とする首相発言にまでケチをつけ、反論を飛ばす。隣国はじめ外国からの反響が伝えられもしないうちから「反発必至」などの大見出しを躍らせる。公職者に、「心の問題」や「政治問題化を避けるための」留保を許さないメディアが、何をもって自らの言論表現の自由を主張できるのか。型にはまった薄っぺらな思考と、独善意識が近年ますます強まる一方で、そこからはみ出す論理は徹底排除するしか知恵のないメディアには落胆と失望しかない。
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