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2012-09-03 00:00
日本は、日米同盟の再活性化のため、自ら動け
鍋嶋 敬三
評論家
日本は一流国家としてあり続けたいのか、それとも二流国家へ滑り落ちるのを甘受するのか。第3次アーミテージ・ナイ報告(2012年8月)が決断を迫った。日米同盟関係が「漂流」し、「危うい」との危機感から「より対等な同盟」を求める米国の超党派の意思が底流にある。11月の大統領選挙の結果にかかわらず、同盟関係の見直しと日本の役割拡大を求めてくるのは避けられない。問題は、日本が主体的に何をなすかである。尖閣諸島への中国官民の領海侵犯や不法上陸が起きるたびに、日本がマスコミを含め「尖閣が日米安保条約の適用範囲内にある」ことを米政府に確かめては安心するパターンから、脱却する時である。日本の領土である以上、適用範囲であることは自明の理だ。戦後60年以上も米国がなんとかしてくれるだろうという対米依存症、甘えの深層心理がまん延し、自らの国を守るための防衛努力を怠ってきた。そのような精神構造は二流国への転落の糸口に十分なり得る。
同盟関係は不変ではない。国際環境、脅威の変化に応じて戦略も対応せざるを得ない。中国の影響力拡大、米国の地位の相対的低下によるアジアの勢力バランスの変化で、米国一国では対処できない事態が出現した。米国は多層的な同盟・友好関係のネットワークを構築する必要に迫られた。それがアジア太平洋へと軍事、外交戦略をシフトさせた背景である。日本への期待も変化することは言うまでもない。基地と第7艦隊を含む在日米軍の存在は、日本自体の安全保障にとっても不可欠である。中国や北朝鮮の軍事的脅威の増大、米軍事費の大幅削減に伴い、豪州、フィリピン、シンガポールなどへのローテーション配置が本格化し、恒久的な在日米軍基地の戦略的価値は逆に高まった。アーミテージ報告は「日本に対する拡大抑止の最大の保証は、駐留経費負担(HNS)に支えられた在日米軍だ」と断言している。日本人が基地の存在を占領下の「負の遺産」として厄介者扱いし、自国の安全保障への価値を見出していないことへのいら立ちが感じられる。
日米同盟の将来は、日本が犠牲を払ってでも同盟を維持する決意があるかどうかにかかっている。憲法解釈による集団的自衛権行使の禁止、武器禁輸3原則、国連平和維持活動(PKO)の武器使用制限など、時代の変化と国際社会の要請に真っ直ぐ向き合わないアナクロニズムが、政治を支配していては「決意」のほども疑われる。日本が選択する外交戦略は国の運命を左右する。米国が主導する環太平洋パートナーシップ(TPP)協定はその典型である。農業など国内の限られた利益集団の政治的圧力に負けて、21世紀の世界秩序を塗り変えるほどの大きな枠組みへの参加をちゅうちょするのでは、国際的なリーダーシップどころか、発言力の低下は免れない。何が真の国益かの大局的判断ができない政治が自民党政権以来何十年も続いた。日米共通の利益を見出す政治的勇気と努力を欠いては、同盟の維持はおぼつかない。
日米安保条約は2010年に改定50周年を迎えた。しかし、民主党政権は日米同盟の基礎を揺るがす危機を招き、記念すべき首脳による共同宣言が発せられなかった。田中明彦東京大学教授は日米同盟の最大の機能として「強大化する中国に自制を促す装置」と規定した。2010年5月、日本国際フォーラムが全米外交政策委員会と共催した50周年記念円卓会議で森本敏拓殖大学教授(現防衛相)は日米同盟強化のため(1)日米同盟、国際協力を確実にできる防衛力拡充、(2)アジア太平洋地域安定のための主導的役割、(3)核抑止担保のための概念と運用手段の共有、の必要性を指摘した。普天間基地問題だけに目を奪われていては、日米同盟深化の展望は開けない。日米安保体制の重要性を国民が再評価し、再活性化のために世界的視野に立って日本が何をするか、自ら動く時である。
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