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2012-09-04 00:00
(連載)オバマ政権のアジア・シフト政策は日本の国益に反する(2)
河村 洋
外交評論家
アジア太平洋地域の諸国民は、あまりにもナイーブにアメリカの戦略上の重点の地理的な移転に目を奪われがちである。しかし、イギリス労働党の外交戦略家であるマーク・レナード氏が7月に『フォーリン・ポリシー』誌に投稿した論文で述べたように、自由民主主義国よりも新興経済諸国とのパートナーシップが重視されるようになっているという側面も見落としてはならない。アジア重視の基本的な考え方を理解するうえで、その先駆けとなった昨年11月の『フォーリン・ポリシー』誌にヒラリー・クリントン国務長官が寄稿した論文を読み返す必要がある。確かにクリントン長官は「アメリカの外交政策の重点をイラクとアフガニスタンからアジアに移すべきだ」と述べている。しかし、イラクとアフガニスタンでの戦争は「市場」のためではなく、テロリストや核の脅威と戦うためのものであった。私がこのことを強調するのは、クリントン長官がアジア重視を掲げた論文があまりにも「市場志向」だからである。
クリントン長官の論文の前提は「アジアの成長と活力を取り込むことがアメリカの経済的かつ戦略的な利益であり、オバマ大統領にとっての重要な優先案件である」ということである。他方で、長官の論文では「我が国はヨーロッパとのパートナーシップと彼らの貢献を誇りに思っている。我が国が現在なすべきことは、大西洋地域と同様に太平洋地域でも持続的でアメリカの国益とも合致するパートナーシップと制度を構築することである」と記されている。クリントン長官の論文では「アメリカは太平洋国家であるとともに大西洋国家である」と述べられているが、全体的な語調は「太平洋」、より率直に言えば「新興経済諸国」に傾いている。さらに憂慮すべきは、超大国としてのアメリカの役割への「決別状」とも思えるような記載が見られることである。「2000年代のアメリカ外交は、冷戦終結による平和から一転してイラクとアフガニスタンでの戦争に明け暮れた。両戦争が縮小される中で、我が国は新しい世界の現状に合わせて重点地域を移転する取り組みを加速する必要がある」と述べられている。世界の現状はそれほど変わったのだろうか?ロシアと中国に対しては新冷戦に突入し、イラクとアフガニスタンでは依然としてテロリストや過激派と戦い続けねばならない。
クリントン長官はアジアでの経済的な機会について紙面の多くを割いているが、安全保障での最重要課題は中国の軍事的台頭にどのように対処するかのはずである。しかし、この論文では地域レベルあるいは世界レベルでの中国の野心を封じ込めることよりも、北京政府の抑圧性の強い体制が抱える政治的なリスクを承知のうえで、対話と市場機会が重視されている。そして日米同盟を地域の平和と安定の中軸だとしながら、中国と北朝鮮の脅威を抑える戦略については殆ど言及されていない。これは韓国、オーストラリア、フィリピン、タイなどアジア太平洋地域の他の同盟国についても同様である。(つづく)
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